■絶滅装置

 生殖細胞は自身の細胞とレトロウイルスを区別できる。これによって生殖細胞はウイルスのライフサイクルにおける不可欠な段階を認識し、侵入者に対抗し、ゲノム感染を抑制することを、今回の研究結果は示唆している。

 論文の主執筆者で、マサチューセッツ大医学部のウィリアム・トイルカウフ(William Theurkauf)氏はAFPの取材に「これが機能してはいるが、それほどうまく機能しているわけではないようだ」と語った。

 トイルカウフ氏は、これについてインフルエンザに例えて説明した。インフルエンザになると体が病気と闘っている間、体調は悪くなる。この初期の免疫応答がなければ、あらゆる感染症が死につながる可能性がある。

 免疫応答の第2段階では、ウイルスの非活性化に特化した小型リボ核酸(RNA)生成されるが、コアラは現時点では第2段階応答を進化させていない。小型リボ核酸はさまざまな過程において欠かせない調整的役割を担っている。

「現在確認されているのは初期応答だ」とトイルカウフ氏。「ウイルスの活動を実際に停止させる次の段階に進んでいるコアラが見つかるかどうかが問題だ」

 既に一部のコアラで第2応答の進化が発生しているかどうか、もし発生していない場合、コアラが第2応答を進化させるのにどれくらいの時間がかかるかは不明だ。もし、進化しなければ、KoRV-Aがコアラの「絶滅装置」となる恐れがあるという。

 コアラが自力で第2応答を進化させるのを待つのではなく、人間が遺伝子工学によって進化を加速させるような介入を行うことも考えられる。(c)AFP/Issam AHMED