【10月6日 AFP】タイ南部ヤラ(Yala)の裁判所で4日、殺人事件の容疑者らに無罪判決を下した裁判官が、同国の司法制度を非難した後に自らの胸部を銃で撃つ事件があった。この裁判官が法廷内で行ったひたむきな演説は、フェイスブック(Facebook)上でライブ配信された。

 同国の裁判は、一般の人々の軽犯罪に対しては即座に厳しい判決が言い渡される一方、金持ちや権力者に有利に働くことが多いとの非難がある。ただ、裁判官が司法制度を非難する事態はこれまでほとんど例がない。

 裁判官のカナーゴン・ピアンチャナ(Kanakorn Pianchana)氏は4日午後、同国の反政府武装勢力の中心地であるヤラにある裁判所で、銃による殺人事件をめぐりイスラム教徒の被告5人に対して判決を言い渡していた。

 カナーゴン氏は5人を無罪とする判断を下し、よりクリーンな司法制度を訴えた後、拳銃を取り出して自らの胸を撃った。

 同氏は発砲する前、自身の携帯電話を使ってフェイスブック上で映像をライブ配信しながら、「誰かを罰するには、明確かつ信用できる証拠が必要だ。だからもし確信がなければ、罰してはならない」と訴えた。

 さらに「この5人の被告が罪を犯していないとは言わない。犯したかもしれない」「だが裁判の過程では、明性と信頼性が必要だ。犯人ではない人々を罰すると、身代わりとして彼らに罪を着せてしまうことになる」と指摘した。

 フェイスブック上での配信はここで途切れたが、目撃者によると、カナーゴン氏はタイの前国王の肖像画の前で司法界における宣誓文を暗唱したという。

 司法省のスリヤン・ホンウィライ(Suriyan Hongvilai)報道官は5日、AFPに対して「カナーゴン氏が医師から治療を受け、危険な状態からは脱した」と述べ、「彼は『個人的なストレス』で自らを撃った。だがこのストレスの原因は分かっておらず、捜査が行われる予定だ」と説明した。

 被告らの弁護人はAFPに対し、カナーゴン氏は、検察が示した証拠では有罪とみなすのには不十分だと判断したと述べ、「現在5人はまだ勾留されているが、州検察が控訴するかどうか状況を見守っているところだ」と話した。(c)AFP