【9月18日 AFP】自動車の排ガスや石炭火力発電などから主に排出される黒色炭素(ブラックカーボン)粒子が、胎盤の胎児に面している側である「胎児面」から検出されたとの研究論文が17日、発表された。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された論文によると、日常生活で大気汚染物質に最も多くさらされていた女性の胎盤から検出された黒色炭素粒子濃度が最も高かった。

 論文の執筆者らは、「今回の研究は、大気汚染由来の黒色炭素粒子がヒト胎盤内に存在することを示す有力な証拠となった」と述べている。さらに「幼少期以降の汚染が健康に有害な影響を与えることについての信ぴょう性のある説明」にもなるという。

 大気汚染は子どもの健康に破壊的な影響を及ぼす恐れがあることが知られている。最大のリスクは低出生体重で、これにより糖尿病、ぜんそく、脳卒中、心臓病やその他多数の病気の発症率が高まる。

 だが、大気汚染がこのような脅威を新生児に及ぼす仕組みと理由については生物学的な説明がされておらず、医師の間で長年謎となっていた。

 ベルギー・ハッセルト大学(Hasselt University)のティム・ナウロ(Tim Nawrot)氏率いる研究チームは「黒色炭素粒子が母親の肺から胎盤に移動できる」と仮定。高解像度撮像装置で、正期産23例と早産5例の胎盤を調べた。

 その結果、平均濃度1立方メートル当たり2.42マイクログラムの黒色炭素粒子にさらされていた女性10人は、その4分の1の濃度の黒色炭素粒子にさらされていた女性10人に比べて、胎盤内の粒子濃度が著しく高いことが明らかになった。

 さらに深刻なのは、微量の黒色炭素が胎盤面で見つかったことだ。だが、胎児の体内には汚染粒子の痕跡はなく、胎盤が毒性物質を防ぐ役割を果たしている可能性があることを示唆している。

「だが、黒色炭素により胎盤が損傷している可能性がある」と、ニュージーランド・オークランド大学(University of Auckland)環境学部のジェニファー・サモンド(Jennifer Salmond)准教授は、今回の研究結果の解説記事で述べている。「胎盤機能の低下が、他の研究で大気汚染との関連が指摘されている低出生体重を説明する可能性もある」という。

 胎児は、発達過程において特に空気の質の悪さの影響を受けやすい。この期間に大気汚染にさらされると、生涯にわたる発達の変化や肺組織への恒久的な損傷などを引き起こす可能性がある。

「今回の研究では、世界保健機関(WHO)の基準で特に汚染度が高いとはされていない大気に由来する黒色炭素粒子も胎盤内に蓄積しているという点を最も憂慮すべきだ」とサモンド准教授は指摘している。(c)AFP