【9月7日 AFP】8月のある朝、フランス・パリで男女数百人が1か月にわたる過酷な試験「ピシーヌ(スイミングプールの意味)」に挑んでいた。ピシーヌは通信事業で財を成したフランスの富豪グザビエ・ニエル(Xavier Niel)氏が2013年に設立したプログラミングスクール「エコール42(Ecole 42)」の入学試験だ。

 エコール42は若者のIT業界への就職や起業を支援するスクールで、授業料は無償、講師はいないが、カルト的な人気を博している。校名は、ダグラス・アダム(Douglas Adam)のSF「銀河ヒッチハイク・ガイド(The Hitchhiker's Guide To The Galaxy)の「究極の疑問」に対する答えに由来している。

 毎年、プログラム定員約1000人に対し約4万人の応募がある。ピシーヌを受けることができるのは約3000人で、受験生は4週にわたり毎日10~16時間、プロジェクトや課題に取り組む。

■「落ちこぼれ」も歓迎

 ニエル氏があらゆる人を対象とした無償コーディング学校の設置を発表した際、国内にはすでに多数の技術者向けの学校が存在するとして、フランスの主なIT業界団体の反応は鈍かった。

 エコール42の学生の40パーセントはフランスの大学入学資格試験「バカロレア」を取得していない。だが、開校から6年後、卒業生の就職率は100パーセントに達しており、懐疑派の懸念は誤りであったことが証明されている。

 ニエル氏は2016年、米シリコンバレー(Silicon Valley)に姉妹校を設置した。また、2020年までに14か国に姉妹校20校を開校する計画で、ブラジル・リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)、ロシア・ノボシビルスク(Novosibirsk)、東京などを視野に入れている。

 フランス労働当局による昨年の調査では、IT産業界の求人数は7万5000件に上った。

 エコール42にはレベル別に21講座を提供しているが、修了には平均で3年かかる。だが、受講者の多くは修了前にヘッドハンティングされていく。

 チャットボットの開発を手掛けるスタートアップ企業「クレビー(Clevy)」の共同創設者バスティアン・ボテラ(Bastien Botella)さん(33)は、講座を3分の2ほど終えた時にウェブデザインの仕事を見つけた。元ホテルマネジャーだったボテラさんはバカロレアを取得しておらず、別のITスクール数校には入学を認められなかった。

 「(エコール)42は人生の転機となった」とボテラさんは話す。会社の従業員21人中6人はエコール42の仲間で、同僚にはフランスのトップレベルの工科大学卒業生もいるという。