【7月28日 AFP】脳腫瘍専門医師のアシュリー・サムロール(Ashley Sumrall)氏は、医師として働き始めたころ、生涯忘れられないような経験をした。

 脳腫瘍の分野で患者の死は特に珍しいことではなく、約90%が死に至る。だが、長期間治療に関わったある男性患者が死んだとき、まるで自分の家族を失ったように感じたのだった。

「月並みな言い方かもしれないが、がんが患者の家族全員に影響を及ぼす病気だというのは本当だ。このため医師は、患者、その配偶者や介護者、成人した子どもといったさまざまな人のことを気に掛けなければならない。医師は家族全員と関わることになる」とサムロール氏はAFPに語った。

 がんの診断は、患者とその家族に衝撃を与える。だが、がん治療に携わる医師に対する影響はあまり考慮されておらず、医師が不安神経症やうつ、燃え尽き症候群になるリスクは高い。

■1日1人の医師が自殺

 米精神医学会(APA)の昨年の報告書によると、米国では1日に1人の割合で医師が自殺している。これは、医師10万人当たり28~40人が自殺している計算で、一般の人に比べると倍以上である。

 米ジョージア州アトランタ(Atlanta)のエモリー大学医学部(Emory University School of Medicine)副学部長で、がん専門医師のビル・イーリー(Bill Eley)氏は「一般的に医師は自身の心や体の健康について、他の人に比べ早期に助けを求めないことが知られている」と指摘する。

「医師は患者の死と最後まで向き合わなければならないが、それによって自身が経験する身体的、精神的、感情的なストレスに対して十分な準備ができていない」

 この問題を研究する専門家はストレス要因として、燃え尽き症候群と結果を出さなければならないという絶え間ないプレッシャーを挙げることが多い。米国の病院制度は、医師の多忙度を数値にしているが、医師が患者にとってどれほど価値がある存在かを測る数値はない。