■患者の生存期間が延びたことも影響

 ミシガン大学(University of Michigan)ロージェルがんセンター(Rogel Cancer Center)で精神腫瘍学プログラムを率いる心理学者、ミッシェル・リバ(Michelle Riba)氏は、がん専門医師にストレス要因が集中するのには理由があると説明する。

「われわれは患者と長期にわたる関係を築く。患者の生存の鍵を握ることも多い。決して過ちを犯すことはできない。そのことがプレッシャーを生んでいる」

 イーリー氏も同意見だ。「次から次に悲劇は起こる。それでも次の患者を診察しなければならない。だが、医師が悲しみや苦痛からどう回復していくかという過程について関心が向けられることはほとんどない」

 また、化学療法やそれに伴う副作用など、がん治療が患者に大きな苦痛をもたらしていることも、医師のストレス要因になるという。

 今日、がん治療は進歩し、患者の生存期間も延びているが、そのことがかえって多数の問題をもたらしているとイーリー氏は指摘する。「ありがたいことに、われわれは以前よりも患者と長期にわたって関係を築くことができるようになった。だが、そうした関係が築かれた後に患者を失えば、悲しくつらい思いをする」

 イーリー氏は医師になって間もない頃、それまで生活に張りを与えてくれていたダンスなど趣味に対する興味を失ったという。「何年も感覚がまひしていた。あまり感情が湧かなかった」と話す。

 特効薬は、同僚や上司、患者やその家族らと強い人間関係を築くことだという。

「われわれのチームは実際、毎年50人ほどの患者を失っている。だがそれを、患者以外の人が次の段階へゆっくりと移行するのを手助けする機会と捉えている。私たちが感じる苦しみは、彼らの痛みに比べれば微々たるものだ」 (c)AFP/Issam AHMED