■不動産業者のロビー活動

 ダラビはもともと沼地だったが、英植民地時代の産業の拡大に伴い19世紀末にボンベイ(Bombay、ムンバイの当時の呼称)に人々が流入したことで急速に発展した。近年では、カメラを持った観光客が、ブリキ屋根の今にも崩れそうな工房をのぞいたり、ヤギや手押し車をよけながら狭い通りを散策したりする姿も見られるようになった。

 ダラビはムンバイという巨大な港湾都市の中心に位置し、オフィス街バンドラ・クルラ・コンプレックス(Bandra Kurla Complex)や空港、鉄道の駅、主要水路などにも近く、開発業者には魅力的な地となっている。セクリンクは、これらの高層ビルによって150億ドル(約1兆6000億円)の利益を見込んでいる。

 しかし、フリージャーナリストのカルパナ・シャルマ(Kalpana Sharma)氏は、「不幸なことに、不動産業界が利益を追求するあまり、ダラビの再開発が決まってしまった」と話す。

 当局は今後、2000年以前からダラビに住んでいる世帯についての調査を実施する予定で、該当する人々には無償で住居が提供されるという。シャー氏によると、開発はこの調査の後に開始され、住民らには5年以内に新しい住居が提供される見通しだ。

 だだ、再開発に対する住民らの懸念は払しょくされていない。

 プラスチックの再生工場を経営する男性(55)は「私たちは再開発に反対しているわけではない」と話すも、「だが、この場所を産業が活発な地域にしたのは私たちだ。ビジネスを取り上げられたら、何もないまま取り残されてしまう」と不安の表情を浮かべた。(c)AFP/Peter HUTCHISON