■もう一つのパキスタン

 パキスタンはかつてヒッピーに人気の旅行先だったが、1970年代に国全体がイスラム化を遂げ、その後に流血の紛争状態に陥り、訪問者数は激減した。

 死者を出す襲撃は今なお起きているが、治安上の懸念は緩和されつつある。当局と実業界はパキスタンが敵対的で危険な国だというイメージを拭い去ろうと躍起になっており、徹底的な調査をするというよりも、きらびやかなシーンを切り取って紹介する「インフルエンサー」の起用に特に熱心だ。新しい世代の若者や冒険好きの旅行者にパキスタンの新たな面を見せることができるためだ。

 だが、パキスタン人と経験を積んだ外国人旅行者らは、それらはパキスタンの全体像を正確に表現したものではないと警鐘を鳴らす。

 同国の観光インフラ開発は著しく遅れており、外国人が訪問できる場所に関する政府の規制は不透明だ。家父長的社会のパキスタンでは、女性が男性から嫌がらせを受けたり、情報当局によって好奇心旺盛な旅行者が拘束されたり、治安当局者が同伴を主張したりすることもしばしば起こる。

 英国人女性ジューンさん(51)は「『パキスタンは何もかも素晴らしい』というのはまったく無責任だ」と憤激する。ジューンさんはパキスタン北部スワト(Swat)渓谷を訪問中、警官から嫌がらせを受けた経験がある。

 首都イスラマバードでこのほど開催された観光サミットに出席したザラ・ザマン(Zara Zaman)さんは「これら(インフルエンサー)旅行者は全員が案内付きで、しかも有力者の保護を受けて観光している」と指摘する。

 例えば、パキスタン・トラベル・マート(Pakistan Travel Mart)の最高経営責任者(CEO)アリ・ハムダニ(Ali Hamdani)氏は、ウィーンズさんの運転手を務め、あらゆる問題に対処した。

 ズベックさんとガブリエルさんは、風光明媚(めいび)な南西部バルチスタン(Balochistan)州を訪れることができたが、この地域は暴力的な反政府活動でも知られ、情報機関の許可なしに訪問できる外国人はほぼ皆無だ。