【5月13日 AFP】ブータンのジグミ・ドルジ・ワンチュク(Jigme Dorji Wangchuck)国立病院では、毎週土曜日にだけ、ロテ・ツェリン(Lotay Tshering)医師(50)が患者を執刀する。ツェリン氏は、ただの医師ではない。平日は、首相として「国民総幸福量(GNH)」という独自の指標で知られるヒマラヤの王国の国政に携わっている。

「私にとって、手術はストレス発散だ」。5時間に及ぶぼうこう再建手術を終えたばかりのツェリン氏は、AFPに語った。「ゴルフやアーチェリーを楽しむ人がいるように、私は手術をするのが好きなんだ。週末をここ(病院)で過ごしているというだけだ」。首相がくたびれた白衣にサンダル姿で病院内を歩き回っていても皆、平然としている。

 バングラデシュや日本、オーストラリア、米国で医師としてのキャリアを積んできたツェリン氏は、2013年に政界入り。その年の選挙では敗北し、ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(King Jigme Khesar Namgyel Wangchuck)直々の命令で、医師団を率いて遠隔地の村へ無料診療の旅に出たが、昨年、絶対王政廃止後3回目となる民主選挙で首相に選出された。

 ツェリン氏は現在、土曜日は紹介を受けて来た患者の治療に当たり、木曜日の午前中には研修生や他の医師に医療的なアドバイスを行う日々を送っている。日曜日は家族と過ごす時間だという。

 首相執務室の椅子には、白衣がかけてある。医療対策を公約に掲げて当選したことを忘れないためだ。

 ツェリン氏いわく、政治家と医師は、よく似ているそうだ。「病院では、患者を診察して治療を行う。政府では、政策が健全かどうか精査して改善に努める」と話し、「死ぬまで私はこれを続けていくつもりだ。毎日ここ(病院)にいられないのは寂しい」と付け加えた。(c)AFP/Nidup Gyeltshen