■意図的な破壊

 ISがタルアファルの農家を標的にした理由について、この町に本拠を置く民兵組織「ハシド・シャービ(Hashd al-Shaabi)」(人民動員部隊)第53旅団の旅団長を務め、先ごろイラク連邦議会の議員に選出されたムクタル・ムサウィ(Mukhtar al-Musawi)氏は、地元農家の7〜8割がシーア派だからだと説明する。

 ムサウィ氏はこう推測する。ISはそもそも、シーア派の住民が町に二度と戻ってこないようにしたかった。実際に戻ってきたとしても、生活の再建に苦しむように仕向けたかった。さらに、独特の甘酸っぱい風味のオリーブが名産だったタルアファルを、果実を輸入に頼る地域に変えることすらもくろんでいた──。

 タルアファル一帯は、以前はオリーブ産業でもうかっていた。ムサウィ氏自身も、ISが来る前は、月に150万から200万ディナール(約14万〜18万円)稼げたという。

 それが今では、卸売市場が毎月何千ドルも支払って、トルコからオリーブを仕入れている。このお金は、以前なら地元で回っていたはずだ。

 ISによるオリーブ園の破壊は、人々が以前と同じ仕方で生計を立てるのを妨害する意図的な行為だった。地元住民はそう口をそろえる。

 農家のスロマンさんは語る。「ISはこの地域を熟知していて、住民がオリーブを愛していることも知っていました。つまり、彼らが私たちの木を破壊した時、自分たちが何をしているか、よく分かった上でそうしたのです」「ISはそれがどんな結果をもたらすかも分かっていました。彼らは、私たちの現在だけでなく、未来も壊そうとしたんです」

 米国際開発局(USAID)が2011年に作成した、イラクでのオリーブオイル生産への多角化に向けた潜在力に関する報告書によれば、イラクのオリーブ年間生産量は1万〜1万2000トンにとどまっており、国内の年間平均消費量の3万トンを自給できる水準にはない。

 報告書では、イラク国内のオリーブの木60万本の大半が、ニナワ州、中でも、タルアファルから100キロほど離れたバシカ(Bashiqa)地域で栽培されている事実にも言及。オリーブについて「イラクの農家にとって重要な換金作物となる可能性がある。水資源に制約がある地域でも栽培でき、実を結ぶという点でも魅力的だ」と指摘している。バシカも、2年半にわたってISに支配されている。