■毒物も散布

 地元農家のアリ・アズガル・スロマン(Ali Azgar Suloman)さんに、町の郊外にある、かつて自身のオリーブ園だった場所を案内してもらった。数年前には実をたくさんつける見事なオリーブの木が生い茂っていたが、今ではどの木も立ち枯れてしまっている。ISによって破壊されたオリーブ園には、木を直接焼き払われたところもあるが、ここのように、木の根に毒物をまかれたところもある。

 スロマンさんは、壁に囲まれたオリーブ園跡の枯れ木の間をゆっくり歩きながら、土壌の状態を心配した。ISが根元にまいたのは主にガソリンなどの石油類だったということは理解していても、ほかの毒物、それも土壌が永久に汚染されるような毒物を使ったのではないかという疑いが、頭から消えないのだという。

「ISがやってくる前は、ここらは一面オリーブ林でした。タルアファルは、昔からずっとオリーブで有名だったんです。ですが、ISのせいで私たちのオリーブの木はほとんどすべて台無しにされました。私たちのオリーブ園はなくなってしまった。すべて破壊されてしまったんです」

 スロマンさんによると、タルアファル郊外に広がる農地だけで地元農家は約5000本のオリーブの木を栽培していたが、それがほぼ全滅した。今でも残っているのは、家の庭に生える一握りの木だけだ。

 オリーブ園跡の片隅には、破壊された農機が転がっていた。ISによって焼かれたのだという。「あれは買ったばかりのトラクターだったんです。走らせたのはたった5キロくらいでした」。スロマンさんはさび付いた残骸を指さして、途方に暮れた。

 IS支配からの解放後、避難先から戻ってきた農家のアリ・モハメド・サレフ(Ali Mohammed Saleh)さんの場合も、待っていたのは目を覆いたくなるような惨状だった。

 家畜の羊640頭はいなくなり(国境を越えてシリア領内に連れていかれたらしい)、オリーブ畑の木は265本すべてが枯れていた。農機具は略奪され、農作物に水をやるのに使っていた井戸は、がれきで埋められていた。農業施設も、軍事活動が上空からの監視で捕捉されないように、ISの手で焼き払われていた。

 サレフさんはこう語る。「戻ってこられたのはもちろんうれしいですし、家族が無事で本当に良かったと思います。それでも、こんな状態になった自分の農場を目にすると、やはりやりきれない気持ちになります」

「何もかもひどい被害に遭ったので、また一から農業を始めるのはたいへんですが、息子たちと一緒に努力しているところです。直せるものは全部直す。そう思ってやっています」