■子どもたち

 グレゴールさんたちは、ベルリンの壁建設の約1年前、1960年に結婚した。すぐに子どもにも恵まれたが、強迫観念に駆られたような映画鑑賞の日々がやむことはなかった。

「子どもが2人いて簡単ではなかった」とウルリッヒさん。親を(映画に)取り上げられて、子どもたちが映画嫌いになっても不思議ではなかった。でも、そうならなかったのは幸いだった。子どもたちはそうした状況に慣れたし、私たちはそうなるように育てた」

 エリカさんは「今の母親たちの育児の仕方を見ていると、あれは別の時代だったと感じる」と話す。「映画を見に行くとき、『2人のことを信じているからいい子にしていてね。ママは数時間で戻って来るから』と子どもたちには言っていた。最終的には一緒に映画に連れて行くようになったけれど」

 子どもたちは映画祭にも一緒に出かけるようになった。イタリア・ベニス、スイス・ロカルノ、ロシア・モスクワ、そしてフランス・カンヌにも。映画祭には毎年欠かさず足を運んでいるという。

■愛とは

 グレゴールさんらは、映画史に関する本や記事を共同で執筆してきた。小さな映画館の立ち上げにも取り組み、ベルリン映画祭では、前衛的な作品を取り扱う部門にも関わった。

「私たちがやってきたことは全て共同のプロジェクトとなった──自分の作業と彼女の作業との間に線を引くことはできないよ」とウルリッヒさんは語った。

 また、映画への愛、そしてお互いへの愛については、フィルムに残すことが難しい感情であるとの意見で2人とも一致している。

「愛とは何か? それは敬意、愛情、そして信頼。しかし私たちが好きな愛を描いた作品はどれも悲劇だ」とエリカさんは述べ、ミヒャエル・ハネケ(Michael Haneke)監督の『愛、アムール(Amour)』、ミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)監督の『さすらい(Il Grido)』、小津安二郎(Yasujiro Ozu)監督の『東京物語(Tokyo Story)』を例に挙げた。

 すると今度はウルリッヒさんが、いい作品のエンディングは2人とも楽しんでいるが、映画が始まる直前の期待でわくわくする感じには到底及ばないと話し、「劇場が暗転して投影が始まる。あの感覚はいつまでも変わらない。毎回しびれるよ」と付け加えた。(c)AFP/Deborah COLE