【11月5日 AFP】「完璧」なナチュラルチーズを探し求めるチーズ愛好家でも、熟成過程でどんな音楽が流れていたかを気にしたことなどないに違いない。チーズに音楽を聞かせるなんて、正気とは思えないという人も多いのではないだろうか。

 だが今、スイス中部エメンタール(Emmental)地方では、地元名産のエメンタールチーズの熟成に音楽がどのような影響を及ぼすかを調べる実験が行われている。

 実験に乗り出したのは、日中は獣医師だが、夜はエプロンを着けて熟練のチーズ職人に早変わりするベアト・ワンフラー(Beat Wampfler)氏。エメンタール地方の外れにある町ブルクドルフ(Burgdorf)で9月から、チーズに音楽を聞かせている。

 きれいに整頓された19世紀の地下貯蔵室には、木箱が九つ並ぶ。それぞれに丸いエメンタールチーズが一つずつ入っていて、真下に取り付けた小さなスピーカーから個別に音楽を流している。

 かかる楽曲は、英ロックバンド「レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)」から伝説的ヒップホップグループ「ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)」まで、実にさまざまだ。ビートの利いたテクノ音楽や「癒やし系」の聖歌隊のコーラス、モーツァルト(Mozart)のオペラ「魔笛(The Magic Flute)」などのクラシック音楽も選曲に入っている。

「ソニック・チーズ:音と美食の間の体験(Sonic cheese: experience between sound and gastronomy)」と題したこのプロジェクトでは、音楽の力がチーズの熟成、特徴、風味にどのように影響し得るかを証明しようとしている。

「チーズの風味を生み出す決め手は微生物だ。熟成を左右するのは酵素の働き。湿気や気温、栄養素だけがチーズの味に影響しているわけではないと確信している」と、ワンフラー氏はAFPの取材に説明した。「音、超音波、それから音楽も(チーズに)物質的な影響を及ぼすことが可能だ」

 実験にはベルン芸術大学(Bern University of the Arts)も協力している。それぞれジャンルの異なる音楽を聞かせながら熟成中のエメンタールチーズは、音楽に誘発されて新たな風味を生み出すのか。その結果は、来年3月14日にチーズの専門家たちの試食によって評価されることになる。

 ちなみにワンフラー氏の一押しはというと、「ヒップホップ・チーズが一番おいしいことを願うよ」だそうだ。(c)AFP/Eloi ROUYER