【8月3日 AFP】1年前、ウーさん(60)の店の周辺では、アズキとココナツのアイスプリンを求める人が長蛇の列をつくっていた。しかし今、ウーさんが自分の店にたどり着くためによけなければならないのは、道路を封鎖しているバリケードだ。

 ウーさんは中国南部広東(Guangdong)省の街、赤坎(Chikan)の歴史地区で、土地を売却するよう圧力をかけてくる政府と断固として闘っている住民数十人の一人だ。住民が立ち退きを迫られているのは、ここに「歴史」テーマパークを造る計画のためだ。

 赤坎は、2007年6月に国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)に指定された歴史都市だ。19~20世紀初頭にかけて建てられた欧州と中国の様式を折衷させた独特の住宅や時計台、精密な彫刻が施された石壁などが立ち並ぶ。

 だが、国際的な注目が元凶だと住民らは言う。

 自治体当局は昨年、赤坎を観光地化する計画をめぐり、中国の投資会社、中信産業投資基金管理(Citic Private Equity Funds)と9億ドル(約1000億円)相当の契約を結んだと発表した。数々の歴史的建造物は、入場料を払って訪れる観光客のためのホテルやバー、レストラン、土産物店やカフェになるという。

 赤坎がある開平(Kaiping)市の陳杰文(Chen Jiewan)副市長によると、この事業は「赤坎の文化財を保護」しつつ、お金を落とす観光客を呼び込むことが目的で、来年予定している試験開業へ向けて「時間を延長してでも働くよう」全市民に呼び掛けている。

 政府から即刻、立ち退くようにと通告を受けたのは4000世帯近くに上り、その大半は補償の申し出を受け入れた。だが、少なくとも58世帯はこれを拒否したため、5月末に「最終通告」が届いた。

 補償額として提示されたのは、1平方メートル当たり3200~3900元(約5万2000~6万4000円)。これでは、近隣地域では小さなアパートさえ買えない。

「みんな怖がって抵抗しない。保護という名の下に全住民を追い出すなんて、全くばかげている」とウーさんは嘆く。

 自治体当局は一部の通りをバリケードでふさぎ、店舗の入り口には錠を掛け、その上から住民に「作業の邪魔」をしないよう警告する赤い横断幕を取り付けた。