【7月20日 AFP】サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)で優勝したフランス代表チームについての軽いジョークが、アイデンティティー政治の問題と、米国の多文化主義に対置するフランスの「人種偏見のない」共和国モデルの利点をめぐり、深刻な議論を巻き起こしている。

 米人気テレビ番組「ザ・デイリー・ショー(The Daily Show)」の司会者トレバー・ノア(Trevor Noah)氏(34)が冗談として語った、サッカーW杯の真の勝者は「アフリカ」だったという発言は、ソーシャルメディアでの猛烈な反応と、駐米仏大使による辛らつな反論を誘った。

 人気コメディアンのノア氏の発言は、優勝したフランス代表チームの選手の多数がアフリカ系で、本人自身が移民か、または移民の子孫であることに着目したものだった。ノア氏は「W杯の勝者はアフリカ」と述べ、「彼らはそれをフランスのチームと呼ばなきゃならないが、彼らを見てみろ。仏南部でだってあんな日焼けはできない」と語った。

 ノア氏のジョークにソーシャルメディアでは多くの反応が殺到。人種と移民、同化政策に対するフランスと米国の大きなアプローチの違いに関する激しい論争をよみがえらせた。ノア氏の発言を楽しむコメントも多かった一方で、白人の父と黒人の母を持ち、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)制度の下で育ったノア氏のコメントに対し、極右の役割を演じていると非難するコメントもあった。

 また、ジェラール・アロー(Gerard Araud)駐米仏大使は即座にノア氏に対し、「この発言ほど真実から遠いものはない」とする厳しい書簡を送った。

 ツイッター(Twitter)で常にフランスの共和国モデルを擁護しているアロー大使は、ノア氏への書簡の中で次のように書き連ねている。「これらの選手の豊かで多様な経歴は、フランスの多様性を反映するものだ」「アメリカ合衆国とは異なり、フランスでは自国市民を人種や宗教、出生に基づいて呼ぶことはない」「われわれにとって、何々系といったアイデンティティーはなく、ルーツは個々の現実だ」「彼らをアフリカチームと呼ぶことで、あなたは彼らのフランス性を否定しているようだ」

 さらにアロー大使は「たとえ冗談だったとしても、これは、白人であることがフランス人である唯一の定義だと主張するイデオロギーを正当化するものだ」と指摘した。