【7月8日 AFP】ノーベル文学賞(Nobel Prize in Literature)を選考するスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)が、関係者のスキャンダルにより今年の受賞者発表を延期する中、国内の文化人100人以上が同アカデミーへの抗議として、新たな文学賞を創設する動きをみせている。

「ニューアカデミー(The New Academy)」と称する団体の発起人らが発表した共同声明によると、新たな文学賞は「文学や文化が、民主主義や透明性、共感や敬意を特権なしに向上させるべきものだと、人々にあらためて伝える」ことを旨とし、「偏見や尊大さ、性差別」を非難する役目を果たすことになるという。発起人には、作家、芸術家、ジャーナリストら107人が名を連ねている。

 セクハラ告発運動「#MeToo(私も)」が世界的に広がる中、スウェーデンの国内メディアは昨年11月、アカデミー会員の夫であるフランスの有力文化人からレイプや性的暴行、セクハラを受けたと主張する女性18人の証言を報じ、スウェーデン・アカデミーに激震が走った。

 この報道を受けて同アカデミーは5月、今年のノーベル文学賞発表を見送る方針を表明。アカデミー会員18人の間にはスキャンダルへの対応をめぐって亀裂が深まり、初の女性事務局長だったサラ・ダニウス(Sara Danius)氏を含む6人が辞任した。

 ただ、約70年ぶりに受賞者の発表がない事態に納得がいかない向きもある。新文学賞の発起人に名を連ねているコラムニストのアレクサンドラ・パスカリドゥ(Alexandra Pascalidou)氏はAFPに対し、「スウェーデンは世界有数の民主主義国で、透明性や男女平等も世界で指折りの水準。偉大な文学賞が必要だ」と語った。

 スウェーデン・アカデミー会員はかつて終身制であったものの、パトロンであるカール16世グスタフ(King Carl XVI Gustaf)国王は、会員の辞任と交代を可能にする制度変更を余儀なくされていた。辞任したシェル・エスプマルク(Kjell Espmark)氏は地元日刊紙ダーゲンス・ニュヘテル(Dagens Nyheter)に対し、「縁故主義や重大な違反の隠ぺい工作、時代遅れの男性的価値観、傲慢(ごうまん)ないじめに組織が乗っ取られてしまった」と語った。

 高尚な文化の担い手とされるスウェーデン・アカデミーは1786年に設立。賞に関する会合や決定については秘匿され、伝統的に慎重かつ気高い姿勢で知られている。これに対してニューアカデミーは、賞の選考過程を透明性のあるものにする方針だ。パスカリドゥ氏は「包括的かつ開放的で、一般の人々の寄与が許容される賞を創り出したい」と語った。

 新たな文学賞の授賞式は、ノーベル賞の晩さん会と同じ12月10日を予定。賞金は100万クローナ(約1300万円)で、クラウドファンディングや寄付で賄う。

 発起人らはスウェーデン国内の司書に対して、7月8日までに作家を最大で2人推薦するよう呼び掛けた。推薦が多かった作家について国内外からネットで一般に投票を募る。その後、出版人、文学部教授、文化部の記者、批評家などで構成された審査員団が推薦と投票の結果に基づき、最終候補者を男女各2人、合計4人に絞り込み、最終選考を行う。

 受賞者の出身国は問わず、過去10年間に文芸作品を少なくとも1つ発表していることが条件。受賞者の発表は、本来なら今年のノーベル文学賞の発表がされるはずだった10月の14日に予定されている。(c)AFP/Ilgin KARLIDAG