【6月1日 AFP】数百万ドルの広告収入を手放してまで、人種差別ツイートをした女優の主演する人気ドラマを打ち切ったABCテレビ。あるいは、人種偏見について従業員に一斉研修を行ったコーヒーチェーン大手スターバックス(Starbucks)。──米国のビジネス界は今、「トランプ時代」の企業になくてはならない資産として「モラル」という支柱のアピールに懸命になっている。

「根底からの変化だ」とAFPに語ったのは、米エール大学経営大学院(Yale School of Management)リーダーシップ学部のジェフリー・ソネンフェルド(Jeffrey Sonnenfeld)上級副学部長だ。「最高経営責任者(CEO)たち、それも概して保守的な大企業のCEOたちが、モラルの欠如による空白を埋めようと、われ先に飛び付いている姿は象徴的だ」

 ABCを傘下に持つウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)のボブ・アイガー(Bob Iger)CEOが5月29日、人気コメディードラマ「ロザンヌ(Roseanne)」の打ち切りを決断するのには、数秒とはいわずとも、数時間しか要しなかった。主演女優でドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領支持者のロザンヌ・バー(Roseanne Barr)さんが、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領の上級顧問だったアフリカ系女性についてツイッター(Twitter)に人種差別的な投稿をしたのが原因だ。類を見ない即断だった。

■「利益よりも利害関係者」、長期的に多くの利益

 スターバックスは今週、数百万ドルの売上を犠牲にして、米全土8000店以上で午後いっぱい閉店し、従業員約17万5000人に人種偏見に関する一斉研修を実施した。4月に東部ペンシルベニア州フィラデルフィア(Philadelphia)の店舗で、黒人男性2人が警察に不当に逮捕された一件を受けての対応だ。

 31日には中古車販売サイトのオートトレーダー(Autotrader)が、コメディアンのサマンサ・ビー(Samantha Bee)さんのテレビショー「フル・フロンタル(Full Frontal)」のスポンサーを降板した。ビーさんがトランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ(Ivanka Trump)大統領補佐官について語った際、ひわいな4文字語を用いたためだった。

 今年のバレンタインデーにフロリダ州パークランド(Parkland)の高校で銃乱射事件が起き17人が犠牲になった後には、一向に進まない米議会の銃規制改革をよそに、小売り大手ウォルマート(Walmart)とスポーツ用品小売りのディックス・スポーティンググッズ(Dick's Sporting Goods)が銃器を販売する際の顧客の年齢制限を21歳以上に引き上げた。

「企業経営者の道徳性や倫理観がかつてなく重視されていることが、調査によって示されている」と、組織と人材のマネジメントに詳しい米ニューヨーク州立大学バッファロー校・経営管理大学院(University at Buffalo School of Management)のジェームズ・レモイネ(James Lemoine)助教は指摘する。「逆説的だが、利益よりも利害関係を有する人々に重きを置く企業の方が、長期的にはより多くの利益を挙げる」

 経済界のこうした変化の原因は、ミレニアル世代とソーシャルメディアの台頭だとレモイネ氏は見ている。ソーシャルメディアは前例のない透明性の下に個人や企業をさらし、また権力を持つ者たちに説明責任を果たさせようという米国人の欲求をかきたてる。

 一方、エール大のソネンフェルド氏は、この変化には「間違いなく」トランプ大統領の登場と、大衆扇動がもはや社会の周縁にとどまってはいないことへの懸念が関係していると考えている。「企業が反応しているのは、公共の場における言説の粗悪化に対してだ。だから、CEOたちは行動を起こしている。なぜなら、彼らは米国の国民性のバランスがいかに貴重かを知っているからだ」とソネンフェルド氏はAFPに語った。(c)AFP/Jennie MATTHEW