■ベースキャンプの「進化」、それによって失われるもの

 インターナショナル・マウンテン・ガイズ(International Mountain Guides)はエベレスト有数の大きな登山チームを抱えるツアー会社だ。同社のグレッグ・バーノベージ(Greg Vernovage)氏は、近代的なサービスの提供は「ベースキャンプの進化」の一部で、自然なことだと述べた。

 だが、この状況を嘆く人々もいる。ベテラン登山家たちによると、昔は「山」では誰もがお互いを知っていて、ラジオの無線周波数から天気予報まですべてを共有し、午後には「ガイド特製ドリンク」(ウイスキー、ハチミツと水を混ぜ合わせたもの)を片手に気軽に会話を交わしていた。

 だが今や、村のような雰囲気は失われてしまったとベテランは口をそろえる。これまでになく多くの登山者が世界最高峰への到達を試みるせいで、ベースキャンプはテントだらけだ。

 昨年、外国人登山者に発行されたネパール側からのエベレスト入山許可は373件で過去最高となった。今年もこれをわずかに下回る程度だ。

 金銭の問題も、かつては結びつきが強かった共同体を隔てるきっかけとなっている。

 登山料金が下がるにつれ登山者も増えているが、価格が安すぎてリスクが高いと多くの人が懸念するツアー会社も登場している。外国のツアー会社は、ネパールのツアー会社は安全を確保せずに低料金パッケージを提供し、混雑を招いていると批判する。一方、ネパールの登山会社は、外国人はエベレストを植民地のように扱っていると批判している。

 近年、ベースキャンプの生活は快適になったが、エベレスト登頂自体は相変わらず危険だ。昨年は6人が死亡した。

 ヒマラヤン・エクスペリエンスのブライス氏は、ジェット旅客機の飛行高度にまで到達する登山への準備として、身体的な面だけではなく精神的な快適さを増すことも欠かせないと指摘する。「人々が心理的にどう感じるかは、山での行動に影響する」

(c)AFP/ Annabel SYMINGTON