【5月23日 AFP】乳がん細胞が体の別の部位で休眠状態に入り、後により困難な形で再発することを可能にするメカニズムが特定された。研究論文が22日、発表された。

 研究チームは、ヒト細胞と生きたマウスを用いた実験を行い、薬剤や遺伝子操作によってこのメカニズムを無効にすると、乳がん細胞を活動不能にし、その拡散能力を阻害できることを明らかにした。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された研究論文によると、今回の発見は乳がん治療法開発のための有望な標的を提供するものだという。

 乳がんによる死亡の約90%は、がんが他の臓器や部位に移動する転移によって起きる。

 これまで専門家らを悩ませてきたのは、がん細胞が長期間にわたり潜伏できるメカニズムと休眠中の細胞を目覚めさせる誘因の特定だ。がん細胞の休眠は数十年に上ることもある。

 論文の共同執筆者で、米国立がん研究所(NCI)の研究者ケント・ハンター(Kent Hunter)氏は、「今回の結果は、乳がん細胞が自食作用(オートファジー)として知られる細胞プロセスを利用することで、患者の体内で長期間検出されずに生存できることを示唆している」と話す。

 オートファジーは、健康な細胞やがん細胞がストレスの多い低栄養の環境で生き延びるために、細胞内の構成要素を再編成する際に発生する。これにより、細胞は部分的に活動を停止し、冬眠に似た状態に入ることが可能になる。

 今回の研究成果は、現在の治療が外科手術や化学療法を施した後に残存する乳がん細胞を根絶できないケースが少なくない理由を説明する一助となる。

 従来の抗がん剤についてハンター氏は、「その多くは、細胞分裂中の細胞を標的とするように作られている」「だが、休眠中の細胞は活発/頻繁な細胞分裂を行っていないので、この種の抗がん剤に耐性を示すと考えられる」と説明している。

 また、休眠細胞が体内の他の部位に隠れていることも、細胞が放射線療法などの局所的な治療法を免れる一因となる。