■「反動」

 一方、ムタワの存在感が薄まっていることに対し、サウジアラビアの若者たちは安堵している。首都リヤド(Riyadh)では多くのレストランが男女を隔離するついたてを外し、男女一緒に音楽を楽しむ姿もみられるようになった。2年前には想像できなかった光景だ。あるカフェでも、白いローブを着て赤いチェックのスカーフを頭に巻いたムタワの警官らが通り過ぎた途端にパーテーションを片付けた。

 サウジ各紙のコラムニストたちはこの数週間、ムタワは無駄な財政負担であり廃止すべきだとの主張を展開している。政府寄りの現地紙オカズ(Okaz)でさえも同様のスタンスだ。

 宗教警察の影響力低下は、長年の保守的伝統を覆しつつあるムハンマド皇太子の自由化政策に伴い生じている。サウジアラビアは人口の半分が25歳未満の若い国だ。自らも32歳のミレニアル世代に属するムハンマド皇太子は、女性が運転することや映画館へ行くこと解禁し、さまざまな娯楽やスポーツにもアクセスできるようにした。

 こうした動きは、サウジ王族を伝統的に支えてきた主流派の保守勢力を脇に追いやっている。皇太子の改革に反対する者たちは、SNSで数百万人というフォロワーがいる著名な聖職者を含め、汚職を名目とした摘発などによって少なくとも公の場では沈黙させられている。

■「非常に危険」

 しかし、社会の自由化と保守派を遠ざけることのバランスは微妙で、当局は宗教的感情を逆なでしないよう細心の注意を払っているようだ。宗教警察に関する政府の方針はいまだはっきりせず、その将来は不透明感に覆われている。

 シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院(S. Rajaratnam School of International Studies)の中東地域アナリスト、ジェームズ・ドーシー(James Dorsey)氏は、「(ムタワを)単純に解散して路上に放り出すわけにはいかない」「最善の策は、彼らを通常の警察に統合することだ」と注意を促す。

 また、サウジアラビアに関する書籍「Kings and Presidents」の筆者ブルース・リーデル(Bruce Riedel)氏も、宗教警察内部の狂信的なメンバーらは「仕事を失い怒りの感情を抱けば非常に危険になり得る存在で、潜在的な脅威となる」と指摘している。(c)AFP/Anuj Chopra