■T・レックスは俊足ではない

 チーターが好む被食動物の一種のスプリングボック(トビカモシカ)が、ほぼ同じ速度で走ることができるのは、偶然の一致ではない。

 ここには進化が作用していると、ヒルト氏は話し、「例えば捕食動物と隠れる場所がほどんどない被食動物など、最大の選択的優位性を獲得する種が、最高速度の予測値に近づく」と説明した。

 対照的に人は、たとえ最高速度に対応する中間規模の体重区分の範囲に入っていても、過去数百年の間、足の速い被食または捕食動物より速く走るよう進化することはなかった。現生人類「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」は、その代わりに知恵を使って他の動物より優位に立つことに注力してきたと考えられる。

 手足の長いキリンは本気で走ると時速60キロに達することができ、クマは最高時速45キロ超で走れるのは数秒間だけで、体に脂肪が多いためにすぐに減速する。

 知られている中で海での最速記録を持つ魚のクロカジキは、時速130キロの超高速で水中を移動する。

 研究チームは今回の最新仮説を、体重が1グラムから10トンまでに及ぶ、軟体動物からシロナガスクジラ、ブヨからオオハクチョウまでに至る動物454種のデータで検証した。

「興味深い点は、陸上、空中、水中の動物にみな同等に適用できることだ」と、豪サンシャインコースト大学(University of the Sunshine Coast)の研究者らはコメントしている。

 今回のモデルは、過去の研究で走行速度が推定されていた数種の恐竜に関するデータにも適合した。

 しなやかな体のヴェロキラプトルは最高時速50キロで走ることができた。その一方で、動きが鈍いティラノサウルス・レックス(T・レックス、Tyrannosaurus rex)の走行速度はその半分にも及ばなかったと、研究は推測している。

 ちなみに、動物の理論上の最高速度に達する加速度kと動物の体重Mとの間に成り立つ魔法の公式は「k=cM^d-1」(cとdは定数)なのだという。(c)AFP/Marlowe HOOD