■未来への問い

 大量失業やテクノロジーへの恐れは近代になってから出現したものだが、万人に収入を与えるというのは数世紀前からある考え方だ。英国の思想家・政治家のトマス・モア(Thomas More)は1516年に発表した著書「ユートピア(Utopia)」の中で、私有財産が廃止され、すべての人が基本的な給付金を受け取る理想的な共和国を空想している。これは当然、産業革命前の時代で、経済基盤は農業であり、人々のニーズは基本的なものにとどまっている。今日の状況はもっと複雑だ。

 仏パリ政治学院(Sciences-Po)系の経済シンクタンクOFCEが昨年12月に発表した研究によると、フランスで現在実施されている各種給付金を廃止しても個々人の収入が減らないようにするには、成人1人につき1か月当たり785 ユーロ(約9万4000円)以上のベーシックインカムが必要だという。この額は前述の社会党アモン氏が掲げている金額より少し多い。

 哲学的な異論もある。スイスでは昨年6月、国民投票でベーシックインカム制度の導入が否決された。反対派は怠け者や無気力な人間に報酬を与えることになるとしてベーシックインカムを批判した。

 ジュネーブ国際開発研究大学院(Geneva Graduate Institute)のチャールズ・ウィプロス(Charles Wyplosz)教授(経済学)は「もし大勢の人が仕事をやめたり減らしたりすることを選択したら彼らの所得の財源はどうなるのか?」と疑問を呈した。

 しかし、ベーシックインカムの伝道者たちは、ニューエコノミーには革新的な徴税方法を開拓する余地が十分あると主張する。また各国の現行の福祉制度には非効率な部分が多く、抜本的な改革で無駄を省けばベーシックインカムの財源を捻出できるとも言う。

 経済学者で元米労働長官のロバート・ライシュ(Robert Reich)氏はブログへの投稿で「新たなテクノロジーで仕事がなくなるとすれば、どうやってすべての人に経済的安定を提供するのが最適かというのが未来への問いだ」と記し「ユニバーサル・ベーシックインカムはほぼ確実にその答えの一部だ」と述べている。(c)AFP/Jitendra JOSHI