【11月9日 AFP】(更新)「私はとても怖い。また戦争が起きるのか。またアメリカはイスラム教の国々を攻撃するのか」──ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が米大統領選で劇的な勝利を収め、イスラム教徒たちが衝撃を受ける中、インドネシアの活動家、アリジャ・ディエテ(Alijah Diete)さん(47)は9日、こう問いかけた。

 トランプ氏の激烈な反イスラム発言は、同氏のポピュリズム戦術の中核だった。アジアのイスラム教徒の多くは、米国民がそのトランプ氏を世界最強の国の指導者に選んだことに絶句している。

 不安に包まれたイスラム教徒たちは、トランプ大統領のもとで起きる恐れのある多くの問題を指摘している。トランプ氏が約束していたイスラム教徒の米国入国禁止を実際に実行するかどうかや、米国の政策の強硬化によりイスラム過激派が急増するのではないかなどといった問題だ。

「アメリカ人はまたしても世界をひどい目に遭わせた」と語るのは、米国に親密な友人が数人いるというバングラデシュのサイード・タシュフィーン・チョードリー(Syed Tashfin Chowdhury)さん。バングラデシュでは大勢の人々が、徐々に判明する大統領選の開票結果に衝撃を受け、フェイスブック(Facebook)上では驚きの反応に賛意を示す声が相次いだ。

 アジアのイスラム教徒の間で怒りと不安の声が広がる中、インドネシアの活動家のディエテさんは「イスラム教徒はトランプ氏にとってよそ者なんだ」と述べる。パキスタンでは、人々が悲しみに暮れる中、ある高官はトランプ氏勝利のニュースについて「とてつもない恐怖だ」と匿名を条件に語った。

 国内で長らくイスラム武装勢力との間で問題を抱え、最近ではイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に大勢の国民が参加しているインドネシアでは、過激派が自らの大義を主張するためにトランプ氏の反イスラム政策を利用する恐れがあるとの不安が出ている。

■「不安と懸念」に震える米イスラム教徒

 トランプ氏の発言は票の獲得が目的であって、実際の外国人嫌悪政策には結実しないと期待する専門家もいる。一方、トランプ政権が米国内に暮らすイスラム教徒に及ぼす影響について、深刻な懸念を示す専門家も多い。

 全米で活動するイスラム教徒の権利擁護団体「北米イスラム協会(Islamic Society of North America)」のハゼム・バタ(Hazem Bata)代表は、米国各地のイスラム教徒が、トランプ政権の意味するものが何なのかを知りたがっていると話した。「私の耳に届いているのは、不安と懸念の入り交じった声だ」

「多くの人々が立場の脆弱(ぜいじゃく)さを感じている。米国には多くのイスラム教徒が暮らしているが、必ずしも全員が米国市民というわけではない。合法的に滞在していても、米国籍を取得していない人もいる。そうした人々は不安を抱いている。震え上がっている人たちもいる」とバタは語っている。(c)AFP