■「プチパン」

 ベトナムで最初に作られたフランスパンは、1858年に東南アジアの広範囲を支配し、1954年にベトナムで起きたディエンビエンフー(Dien Bien Phu)の戦いで解体したフランス領インドシナにいた兵士らの空腹を満たすためのものだった。

 しかし、ベトナムにやって来たフランス人の大半は、パン店のような下級の仕事に興味をもたなかった。人手不足を補うためにパン店で働いたのが、中国人とベトナム人だ。だが、パンを焼いているのが誰かを客に知られないように、彼らはしばしば店の奥に隠れるようにして働いていた。

Appetites and Aspirations in Vietnam』(ベトナムの食欲と熱望)の著者で食物歴史家のエリカ・ピーターズ(Erica Peters)氏によると「1910年までには『プチパン』と呼ばれる小型のバゲットが、通勤途中の(ベトナムの)人々向けに通りで売られていた」という。

 その数年後には、パンに肉や野菜、魚をはさんだ現代のバインミーの原型が、フランス植民地時代の建築やビストロ、カフェが軒を連ねるハノイのあちこちで売られるようになった。

 フランスの影響を受けた料理法は、他にもある。ピーターズ氏によると、フランス人が経営する肉店から譲り受けたくず肉や骨を使って地元の料理人が作ったのが、今やベトナムの国民食である牛肉や鶏肉をのせた麺入りスープ「フォー」だという。

■折衷フード

 ベトナムの商業の中心地ホーチミン市(Ho Chi Minh City)には今日、クロックムッシュやマカロンをパリ(Paris)並みの価格で提供するシックなカフェが点在している。

 しかしハノイでは、1個1ドルのバインミーが今も街頭で屋台料理のトップに君臨し続けている。バインミーを50年間食べ続けてきたという男性客は「フランス伝来だが、ベトナム人の味覚に合わせて変化し、定着したんだ」と語り、目玉焼きとパテをはさんだ堅焼きパンにかぶりついた。(c)AFP/Jenny VAUGHAN