【9月24日 AFP】シンプルな白米の弁当――かつて台湾の鉄道旅客が食べていた飾り気のない駅弁が、郷愁によって人気に火が付き、爆発的に売れている。

 中国語で「便利」を意味する「便当(Biandang、台湾の駅弁)」は数十年間ほとんど変わっていない。炊いた白米に漬物と、蒸した肉か揚げた肉がのっかった伝統の組み合わせは、鉄道の長旅でも傷まない実用的な献立だ。この便当が「古き良き時代」の不朽のシンボルとなり、飛行機や車での旅に対する鉄道の切り札となっている。

 かつては安く食事を済ませようとする旅客の食べ物とされてきたが、今では旅行中でなくても心の安らぎを求めて買い求めるファンもいる。

 台湾鉄路管理局(TRA)は今年、史上最高となる便当1000万個、約7億台湾ドル(約22億6000万円)の売り上げを見込んでいる。TRAの便当は車内や駅でワゴン販売されており、事前注文も受け付けている。今では民間事業者も参入して駅ナカや駅チカの売店で便当を販売しているほか、コンビニチェーンも「便当風」の弁当を販売している。

 もともと便当には丸い金属製の容器が使われ、使い終わったものは座席の下に置かれて回収されていたが、今ではたいていシンプルな紙製・木製の容器が使われている。

 TRA食品・サービス部門のマイケル・リー(Michael Lee)副部長によると、同社の一番人気はシンプルな排骨(パイコー)便当だという。

 郷愁だけでなく価格も人気の一因となっており、昔ながらのこの排骨便当は、わずか60台湾ドル(約190円)。リー氏は「運賃同様、便当も長年にわたって値上げしていません」と語った。

■日本の影響も

 フードライターのワン・ジュエヤオ(Wang Jue-yao)氏によると、駅のホームで売られている便当には防腐のために梅干しを入れているものもあり、これは日本の習慣から取り入れたものだという。台湾の鉄道の大部分は第2次世界大戦(World War II)が日本の敗戦で終結するまで、約半世紀に及んだ日本統治時代に日本が建設したもので、「便当」の名称も日本語の「弁当」に由来すると考えられている。

 台湾では今も毎年延べ2億3000万人以上が鉄道を使用しているが、飛行機や自家用車で移動する人々の増加によって打撃を受けている便当業者もいる。

 北部の海辺の村、福隆(Fulong)で便当店を営む70歳の男性は、台北(Taipei)で開催された便当を特集した食品見本市「2016台湾美食展(Taiwan Culinary Exhibition)」に参加した。男性はAFPに対し、2006年にトンネルが開通して以来、車での移動が容易になったことで、地元の駅に止まる列車が年々減り、売り上げが落ちてきていると語った。それでも毎日1000個を売り上げており、ひいき客がついている店を続けるつもりだと語っている。(c)AFP/Michelle YUN