【7月27日 AFP】窓にはめられた鉄格子が落とす影は、アルゼンチンのブエノスアイレス(Buenos Aires)にある精神科病院をひときわ生気のない場所に見せていた。その時、シンコペーションの効いたタンゴの拍子が院内の空気を満たした。

 ボルダ(Borda)病院で毎日、薬をもらうために足を引きずりながら列を作っていた一部の入院患者たちの足並みが、アルゼンチンタンゴの官能的なステップに取って代わられた。月に2回開かれる講習会は、「私たちはみんなタンゴに夢中」と銘打たれている。

 ダンス講師のラウラ・セガデ(Laura Segade)さんは、「精神障害を抱える患者さんは受動的な傾向がありますが、タンゴを踊るときは積極的に発信する側になります」と話す。

 ボルダ病院は、アルゼンチン最大の男性患者専門の公立精神科病院で、女性のダンスパートナーは、院外から来る熱狂的なタンゴ好きばかりだ。

 ボルダ病院のギジェルモ・ホニグ(Guillermo Honig)医師は、患者にとってタンゴは創造性と身体感覚を養う訓練になると歓迎している。

「今日はダンスがうまくなった気がする。リラックスできたよ」。マクシミリアーノ(Maximiliano)と名乗る男性患者は、「タンゴの歌詞が好きだね。郷愁を誘って物悲しいから」と話した。

 タンゴの講習会を企画したのは、心理学者のシルバーナ・ペール(Silvana Perl)氏だ。

 ペール氏は「統合失調症の患者特有の物憂げな生活に入り込んでいくことが狙いです。芸術的な興奮は彼らを覚醒させ、相互につながりを持たせることができます」と説明すると、ダンスフロアとなっている食堂に戻っていった。フロアでは6人の患者が笑い声を上げ、音楽が始まるとボランティアの参加者とペアを組んだ。

 ダンス講師のロケ・シレス(Roque Silles)氏(53)は、「他のタンゴ教室と同じです。皆が動きを完璧にこなそうとベストを尽くし、言われたことをやるだけではなく、自分でも学ぼうとしています」と話した。「数分前までは不可能に見えていたことをこなそうと、全力を尽くしているのです」

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