【6月13日 AFP】馬は乗って楽しいだけではなく、コミュニケーションスキルを身に付けたり、精神や身体に障害を持つ人の精神を安定させるのにも役立つ。

 調教師のリンダ・コハノブ(Linda Kohanov)さんは、「馬は、乗っている人が隠そうとする感情も見抜きます」と話す。

 馬を利用した心理療法と人格形成――。この2つを融合したものが「馬セラピー」だ。

■馬が教えてくれる自然体のコミュニケーション

 馬セラピーでは必ずしも馬に乗る必要はないと、フランスのある馬セラピー団体のブジリット・マーチン(Brigitte Martin)さんは言う。「グルーミングをしたり、手綱をゆるめて馬を自由にさせておくだけでもいいのです。馬はセラピストと患者の仲介役になってくれます」

 マーチンさんが支援活動をしている自閉症の子ども、視聴覚に障害がある子どもたちは、ポニーと触れ合ううちに落ち着き、気持ちが安定していくという。

 別の団体に所属するある女性は、馬セラピーは幸福感と安らぎを与えてくれると話す。「人は馬と接しているうちに心を開き、よく笑うようになります。馬はとても繊細な生き物です。気持ちを読み取りますが、そこには批判的な態度はありません。だから人は自分の感情を表現できるようになるのです」 

 また、別の女性によると、人は馬を通して他人とのコミュニケーションの仕方、自分を変えるには何が必要か、断る場合はどうやって断ればいいかなどの方法を、力むことなく自然に学べるという。

■馬とのふれあいが精神的なリハビリに

 Charente-Maritimeにある乗馬スクールでは、精神障害者が馬の世話係やインストラクターのアシスタント役をつとめる。創設者のイヴェス・リヴェット(Yves Rivet)さんは、「乗馬しに来た人は、彼らを障害者としてではなく訓練を受けた馬の世話係として見ます。そのため障害者という烙印から解放された彼らは、自分自身を新しい目で見るようになります」と語る。

 セラピーとしての乗馬は、フランスでは1970年代に始められた。1980年代からは精神障害者の治療にも活用されるようになったという。家族に問題を抱えていたり行動に問題がある子どもたちにも、馬は活用される。さらには麻薬中毒患者や犯罪者のリハビリにも役立てられているという。

「社会のルールに従うことを拒絶する子どもたちでも、馬に乗るときは馬のルールに従わなければなりません。それを踏み越えるととても不快だということを知ることになります」と、リヴェットさん。 

 彼は、母親に育児放棄されたある自閉症の子どもについて、次のようなエピソードを語った。「たてがみに顔を埋めたとき、彼は泣きながら母親の名前を叫びました。無意識に母親の黒くて長い髪のことを思い出したのでしょう」

 その日を境に、この子の症状は良くなっていったという。(c)AFP/Annette Gartland