【2月4日 AFP】(更新)今年のグラミー賞(Grammy Awards)で、最優秀ワールドミュージック・アルバム部門にノミネートされているマラウイのバンド「ゾンバ・プリズン・プロジェクト(Zomba Prison Project)」には「一風変わった」メンバーたちが顔をそろえている──。

 ボーカルは殺人罪で有罪判決を受けたイライアス・チメニア(Elias Chimenya)受刑者(46)、ベースは強盗罪のステファノ・ニレンダ(Stefano Nyerenda)受刑者、作詞作曲の一部は看守のトーマス・バイナモ(Thomas Binamo)さんが手掛けている。

 ノミネートされているのは、同バンドのアルバム「アイ・ハブ・ノー・エブリシング・ヒア(原題、I Have No Everything Here)」で、楽曲20曲が収録されている。

 厳重な警備体制が敷かれたゾンバ刑務所で埋もれていた才能を発掘したのは、2013年にここを訪れた米音楽プロデューサーのイアン・ブレナン(Ian Brennan)氏。ブレナン氏は受刑者と看守らの計60人とコラボレーションし、2週間でアルバムを制作した。

 約6時間分の音源から制作されたアルバムでは、所内のミュージシャン16人がフィーチャーされており、楽曲の大半は地元のチェワ語で歌われている。

 ボーカルを務めるチメニア受刑者は、1980年代に口論の末男性1人を殺害し、終身刑を言い渡されて服役中だ。アルバムの5曲目に入っている印象的なバラード「ジェラス・ネイバー(Jealous Neighbour)」の作詞作曲も担当している。

 制作したアルバムをめぐっては、犯罪者を褒めたたえるものとの批判もある。これらの批判についてブレナン氏は、「これは誰かをたたえるためのものではない」と述べ、作品が「人間性」について問うものであるとの考えを示した。

 同刑務所には以前から男性のみのバンドが存在しており、地元の学校を回ってHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染予防メッセージを広めている。

 しかし今回グラミー賞候補となったアルバムには、この男性バンド以外にもメンバーも加わっており、20曲のうちの半分は、同刑務所の別棟で服役している女性受刑者らがボーカルを務めている。彼女たちがいる別棟に楽器はなく、普段はバケツとパイプの切れ端、そして手拍子でリズムを刻むのだという。

 レコーディングに参加したメンバーらには、わずかながらも金銭が支払われるとされ、アルバムの収益についても、すでに釈放されたメンバーも含め、全員で分配することになっている。

 マラウイの全刑務所を統括する総監代理は、AFPの取材に対し、同バンドがグラミー賞候補になったという通知を受けて、「『グラミーって何だ?』と聞いたんだよ」と当時を振り返った。

 米カリフォルニア(California)州ロサンゼルス(Los Angeles)で15日に開催されるグラミー賞授賞式に、同刑務所からの出席予定者はいない。(c)AFP/Félix MPONDA