■ホログラム技術でカラオケが進化?

 テクスター氏が2006年から12年まで運営したVFX制作企業「デジタルドメイン(Digital Domain)」は、ブラッド・ピット(Brad Pitt)主演の映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生(The Curious Case of Benjamin Button)』を手掛けたことで一躍有名になった。08年のこの映画は、複数部門でアカデミー賞(Academy Awards)を獲得した。

 バーチャルリアリティーに関わる技術者たちは、仮想現実が本物に近づけば近づくほど、観客たちはその不完全性に気付きやすくなるということを知っている。彼らは、この「不気味の谷」現象と称される危険性の存在を長きにわたり指摘してきた。

 だがテクスター氏は、『ベンジャミン・バトン』の冒頭部分で観客たちが目にしていたのは、実はブラッド・ピットではなく、バーチャル映像だった事実を振り返り、この落とし穴はすでに乗り越えられたと話す。

 一方で、この分野の先駆者である南カリフォルニア大学(University of Southern California)のポール・デベベェック(Paul Debevec)教授は、亡くなった人々をホログラムで蘇らせることは、実際のコンサートを企画するよりはるかに難しいことだと指摘する。

 同教授は「この技術が斬新で興味深いのは、2パックやマイケル・ジャクソンなど、死んだ誰かに似たものをつくり出すことであり、ホログラムをステージ上に登壇させることが面白いわけではない」と話す。

 しかし、そういった意見をよそに、テクスター氏は、コンサート以外の分野でホログラム技術を活用しようと、さまざまなアイデアをため込んでいる。中でも、自分のお気に入りの歌手と共演できる新しい形のカラオケや、プレーヤーが仮想の自分自身をつくり出せるビデオゲームに大きな可能性を見いだしているという。(c)AFP/Thomas URBAIN