■「電話では中国人のギャラリーオーナーが陶弘景に」

 しかし注目を浴び、メディアに取り上げられるようになると、より慎重になる必要があった。自分の展覧会のオープニングは欠席、もしくは出席しても「陶弘景氏のアシスタント」を名乗り、また取材は電話インタビューのみで「中国人のギャラリーオーナーが陶弘景を演じた」という。

 中国の現代美術は近年、国際的な評価を上げ、中国国内の新富裕層がオークションでの落札価格をつり上げている。美術市場情報大手、仏アートプライス(Artprice)によると、今年6月までの世界のオークションの高額落札作家50人中17人は中国人作家で、また現代美術史市場の世界シェアでも中国人作家が21%を占めているという。

 中国内外の作家を扱う北京(Beijing)の画廊ギャラリー・ヤン(Gallery Yang)のヤン・ヤン(Yang Yang)氏は「現代美術には強い地域性がある。いわゆる芸術の『国際化』など本当は存在しない。国籍が非常に重要なのは明らかだ」と話す。ウエリ氏の名義では、作品は1500元(約3万円)程度で売られたが、北京での「陶弘景」氏の展覧会では、最高20万元(約390万円)の値段が付いた。

 しかしウエリ氏は、「陶弘景」がその役割を終えたと感じ、このたび自らの素性を明かすことを決めた。最初は市場やステレオタイプをからかうつもりで始めたが、対話を始めるのに、もはや「陶弘景」の存在は必要なくなったのだという。「中国人と外国人の文化的差異は狭まっている。それに、私も今では十分、有名になった」