■栄養失調の兵士とともに病院船・氷川丸へ

「じゃあ、脱走しよう、と思ってベッドから降りようと思ったら体がきかない。で、(ベッドから)墜落した。その音を聞いて2人の看護婦さんが飛んで来た。兵隊さんどうしたの?見たら日本の看護婦さん。あ、ここ日本の看護婦さんですね。っといったら、そう。兵隊さん、なにがたがたしてんの、と」「ここどこですかって聞いたら、ここは第4海軍病院のもう、充実した医療(機関)です、心配しないでゆっくり寝てろ。あんたの傷やデング熱やマラリヤを治してやるから。そこで初めて私はね、また、自分の命の続いているなあ、じゃあ、ますます大事にしなくちゃいけない(と思った)」

「そしたら、その第4海軍病院に、ガダルカナルだのニューギニアだのから、いろんな栄養失調の兵隊がどんどん来るから、いっぱいになっちゃった。これを内地へ氷川丸という病院船で帰さないといけない。ところが氷川丸のお医者さんは民間の人。乗ってくるのは軍人・軍属ばっかり。言うこと聞かないだって」

「食べると死んじゃうから、食べるな食べるな、と言ってもそこは、栄養失調になっているから、なんかやたら口に入れる、すると毎日死んじゃう。(注:慢性的な栄養不良が続いている患者にいきなり十分な栄養補給を与えることで発症するリフィーディング症候群と思われる)これじゃ困るというんで、私に、私はちょうど、准士官になっていました。君ならこの軍人・軍属に食べるなという命令が効くと思うから、指揮官になってくれ、と」

「おい、こんな人間が、栄養失調の兵隊さんの指揮官できるわけないじゃないか、それでも、やれっていうから、ああそうですか、じゃあ、一応みんなに食べると死んじゃうんだよ、俺の言うことを聞くんだよ、と言って、それでもみんな食べちゃう。すると毎日死んでいる。その死んだのをどうするの、と言ったら、これ、内地まで持って行くわけにいかない、みんな腐って、それこそみな迷惑だから、途中で沈めていきたい」