【7月29日 AFP】アリは、重いものを持ち上げて運ぶための「集団の筋力」と「個体の指導力」とを組み合わせる、驚くべき能力を持っているとの研究結果が28日、発表された。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された研究では、昆虫など自分たちよりも大きな物体を力を合わせて運んでいる十数匹のアリの集団が、この活動に参加している1匹のアリから提供される情報を基に、進路を調整できることを確認した。

 この1匹の「リーダー」は、集団が進路から外れたり、「困難を生じさせるもの」の方に向かっていたりすることを何らかの方法で察知し、さまざまな角度から引っ張る力を加えることで、進行方向に必要な変更を合図する。他のアリは逆うことなく、その合図に従う。

 研究を主導したイスラエル・ワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)のオフェル・ファイナマン(Ofer Feinerman)研究員は「個々のアリは、障害物をやり過ごす方法を把握しているが、(1匹では)物体を運ぶための筋力が不足している」と説明する。

 同氏は、AFPの取材に「集団は、リーダーの力を増幅させるために形成される。そしてリーダーは、把握している方法を実際の行動に反映させる」と説明した。

 さらに驚くべきことに、リーダーを務めたアリが、その行動の10~20秒後には、さらに最新の情報を持った別の新参アリにリーダーの役目を譲り渡すことも確認できた。

 この行動についてファイナマン氏は、「判別可能な限りでは、リーダー役は他のアリと何ら変わりがない」ことを指摘。「リーダーは誰からも指名されるわけではない。雄ではなく雌の働きアリは、正しい方向に関する最新の情報を持っているという理由で自ら役を買って出る」と続けた。

 アリは、その生物種に属する個体よりもはるかに重い物体を集団で運ぶことを目的に、組織的な行動をとる数少ない動物の一つだ。

 組織的な行動における難題の一つには、協調行動すなわち調和と、状況の変化に合わせて対応できる柔軟性との間にバランスを見極めなければいけないということがある。

 魚群やヒツジの群れなどの集団で生活する動物は、一致した行動をとるように進化してきた。これは、協調行動に不可欠な特性とされる。アリがバラバラではなく組織的に行動できるのは、この特性のおかげだとファイナマン氏は指摘する。

 だが、このいわゆる「行動の順応主義」が難点となる場合に、情報を有するリーダー役が現れるというのだ。

 ファイナマン氏によると、アリは単にリーダーとして一時的に指揮をとるために「自身の存在を集団に伝達する必要はない」と推測されるという。(c)AFP/Marlowe HOOD