■多頭の怪物

 これらの矛盾を説明するために提唱された代替理論の一つである超対称性は、宇宙のすべての粒子に「きょうだい」が存在すると仮定している。これにより、ダークマターとダークエネルギーを説明できる可能性もある。

 だがLHCでは、超対称性のきょうだいが存在する証拠はこれまで何も見つかっていない。その一方で、標準理論で存在が予測された素粒子はすべて観測されている。その中には、万物に質量を与えるとされる「ヒッグス粒子(Higgs boson)」も含まれる。

 超対称性理論では、ヒッグス粒子が少なくとも5種類あると予測されているが、これまでのところ、標準理論のヒッグス粒子とみられる1種類しか見つかっていない。

 しかし、ウィルキンソン氏は、超対称性を見限るのは「時期尚早」と話す。「超対称性を打ち倒すのは非常に難しい。頭がたくさんある怪物だからだ」と同氏は指摘している。

 それでも、今後数年以内に何も見つからなければ、超対称性は今よりはるかに困難な状況に置かれることになると思われ、熱狂的信者の数も減るとみられている。

 クォークは、原子内の陽子や中性子の構成要素である最も基本的な素粒子だ。クォークは6種類存在し、最も一般的なのは「アップ」と「ダウン」クォークで、その他は「チャーム」「ストレンジ」「ボトム」「トップ」と呼ばれている。

 アップやダウンより重いボトムクォークは、崩壊して形を変える可能性があり、通常は崩壊してチャームクォークの形をとる。そして、これよりはるかにまれなケースでは、アップクォークに形を変えることもある。ウィルキンソン氏の研究チームは今回、これがどのくらいの頻度で起きるのかを世界で初めて測定したのだという。「LHCで実施可能とは誰も思わなかった種類の測定なので、チーム全員が喜んでいる」とウィルキンソン氏は説明した。

 これまで、同様の測定には、より強力な装置が必要と考えられていた。(c)AFP/Mariette LE ROUX