■家族そろって「生きるのがやっと」

 小麦農家を営む一家の娘であるマムタズさんは、大きな瞳と染み一つないきれいな肌を持ち、親戚の間でも評判の美少女だった。だが14歳の時、ナシルという民兵の男から求愛され、それを逃れるため、イスラム圏の女性が全身を覆うベール、ブルカを着用するようになった。

 ナシルは、アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)に対抗する民兵組織とつながりがあるという悪評をとどろかせていたが、マムタズさんの自宅の前を長い間うろついたり、待ち伏せをしたりするようになった。マムタズさんの家族と激しい口論を交わし、身を引くよう警告されても、態度を変えなかった。

 2年後、マムタズさんが別の男性と婚約すると、ナシルはマムタズさんの家を襲撃し、酸を浴びせる事件を起こした。マムタズさんの美貌を台無しにすることで、求婚を拒絶された屈辱の復讐(ふくしゅう)を図ったのだ。ナシルはその後、逃亡。裁判所は共犯者のうち3人を10年の懲役刑に処した。事件の犠牲者が女性の場合、法的措置がほとんどとられることのないアフガニスタンでは、まれな判決だった。

 だが皮肉なことに、マムタズさんの本当の苦難は犯人たちが投獄されてから始まった。「彼らは私の首をはねると脅してきた。『刑務所から出たら、おまえの家族全員を殺す。おまえの後をついて回ってやる』」

 アフガニスタン女性の権利保護団体「アフガニスタン女性のための女性たち(Women for Afghan WomenWAW)」によれば、武装集団がマムタズさんの自宅襲撃を企てたこともある。「彼女の一家の男性は常に武器を持ち歩かなければならず、夜は交替で起きて見張りをしている状況だ」という。

 マムタズさんの父親、スルタンさんによると何度も自宅に侵入されそうになり、引っ越しを迫られた。また、投獄されている犯人の親類にオートバイで追いかけられ、すぐに出所できなければどうなるか覚えていろと、脅迫もされた。自分の農場に行くことさえ困難なほどだ。娘への襲撃には身もだえするほど激しい怒りを覚えるが、恐怖におびえてもいるという。「家に閉じ込められ、生活を奪われ、生きるのがやっとだ」