【6月18日 AFP】タイ北部の緑生い茂る高台で、山盛りのゾウのふんの中から女性がコーヒー豆を丹念に拾っている。世界一高い飲み物を作る過程のひとつだ。

 ミャンマーとラオスの国境に近いこの辺ぴな土地は、コーヒーよりも麻薬の密輸で知られる。だがブレーク・ディンキン氏(44)は、動物保護とビジネスを組み合わせた事業に最適な土地だと判断した。

「私のプロジェクトをゾウに乗る人たちに説明したら、狂っていると思われたよ」と、ブラック・アイボリー・コーヒー(Black Ivory Coffee)を創設したカナダ人のディンキン氏は言う。同社はコーヒー通のために、ゾウの消化管を利用して高級豆を作っている。

 同氏は当初、ジャコウネコのふんから豆を集める「コピルアク」コーヒーを作ることを考えていた。だがタイやインドネシア、ベトナムなど東南アジアでの需要が高まるなか、製品の質は悪くなっていた。ライオンやキリンも候補として考えたが、最終的にはゾウに決めた。東南アジアが乾季のときに、ゾウはコーヒーを食べることがあると知ったからだ。

 しかしゾウのふんからコーヒーを作るのは、思っていたよりむずかしかった。

「豆をとってゾウにやれば、素晴らしいコーヒーができるといった具合に簡単だと思っていた」と、ディンキン氏は言う。最初の試作品は「ひどく」て、飲めたものではなかった。「自分が求めていたものができるまでに9年かかった」

 ゾウの胃の中の酵素がスロークッカー(長時間かけて煮込む調理器具)のような機能を果たすと、同氏は言う。ゾウが一緒に食べたハーブや果物と一緒に、コーヒー豆がマリネのように漬けこまれるのだ。17時間かけてゾウの消化管を通る間に、酸によって豆の苦みもとれる。

 1キロのコーヒーを作るには、ゾウはコメやバナナといった通常の食事と一緒に約33キロのコーヒー豆を食べる必要がある。

 それでもやる価値はある。売りは、その希少性だ。2015年、3回目の成功した収穫で、同社は150キロのコーヒーを生産した。

 1キロあたり1880ドル(約23万円)──エスプレッソ1カップあたり13ドル(約1600円)は、決して安くはない。だが最高級のコーヒーを求めるトレンドから、珍しい製品に高額を払うことをいとわない客たちの間で人気だ。

 ブラック・アイボリーのコーヒーが、パリ(Paris)、チューリヒ(Zurich)、コペンハーゲン(Copenhagen)、モスクワ(Moscow)の富裕層のもとへ届けられるのも時間の問題だろう。だが今のところは、アジアの高級ホテルのみで提供されている。ほとんどがタイで、一部はシンガポールと香港だ。

 宣伝のためにも、すべてのコーヒー好きに好まれる必要がある。

 パリの「カフェ・ロミ(Cafe Lomi)」のオーナー、アリューム・パテュール(Aleaume Paturle)氏は、ゾウのふんのブランドは味が受けているというより、珍しさで注目されているだけだと語る。「面白いが、最高の製品ではない。最高のコーヒーを作るには、発酵をコントロールする必要があるが、動物の胃の中でそれをやるのは難しい」

 だが味に「やや調和が欠けている」とはいえ、タイのゾウから作られたコーヒーにはロマンチックな魅力があり、売り上げにつながるだろうと、同氏は指摘する。

 そうしたゾウがいるタイの北端チエンセーン(Chiang Saen)のアナンタラ(Anantara)ホテルでは、上品な19世紀のフランス製コーヒーマシンを使って、ゲストの目の前でゾウのコーヒーがいれられる。

「独特な味だ」と、ドイツからの観光客バーバラ・シャウツさんは評し、キャラメルとチョコレートのフレーバーも感じたと語った。「ぜんぜん苦くない」(c)AFP/Marion THIBAUT