【6月4日 AFP】中国中部・湖北(Hubei)省を流れる長江(揚子江、Yangtze River)で1日夜に大型客船「東方之星(Eastern Star)」号が転覆した事故を受け、中国政府は、当局の対応を絶賛する一方で世論の批判の芽を摘み取り、外国メディアを厳しく規制するプロパガンダ政策を最大限に展開している。

 2日朝以降、救助活動の顔として繰り返し登場しているのは李克強(Li Keqiang)首相だ。豪マッコーリー大学(Macquarie University)の中国メディアの専門家、ニコラス・ダイノン(Nicholas Dynon)氏は、「腕まくりをし、手にメガホンを持って現場で救助活動を陣頭指揮する首相の姿は、中国の国内メディアの事故報道で繰り返し登場している」と指摘する。

 また、中国メディアは3日、転覆した船体から救助された女性(65)の「奇跡的な」救出劇を大々的に報じた。ダイバーや救助隊員が一致団結して女性を救助する場面は、苦難の時期に社会が団結して助け合うことを呼びかける共産党の主張と完璧にかみ合ったものだった。

 対照的に、米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)が国際版の第1面で掲載した写真は、川から引き揚げられた遺体という、大勢の死者が出る可能性を示唆する場面を写したものだった。

■メディア各社に指示書

 中国のメディアやインターネットを監視するウェブサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ(China Digital Times)」が公開した指示書によると、中国当局は国内のメディア各社に対し、事故報道では国営の新華社(Xinhua)通信と中国中央テレビ(CCTV)の情報のみを使うよう指示している。流出した指示書にはまた、事故現場にいる記者を呼び戻すよう求める文言もあった。

 ダイノン氏は「事故現場からの報道は外国メディアを含め規制されているが、これは驚くべきことではない」「中国当局にとって、この事故は国内感情を管理する演習だ。つまり、誰が英雄で誰が悪者なのかについて、はっきりとしたメッセージを発信するよう管理するということだ」と語った。(c)AFP/Sebastien Blanc