【AFP記者コラム】「10分以内に家を出ろ!」命がけのイエメン紛争取材
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■一夜で入れ替わる味方と敵
このひどく複雑な紛争を世界に報じることが、ドバイ支局の仕事だ。部族や民族、宗派が入り交じり、味方と敵が一夜で入れ替わるような国で、それは容易ではない。現在、フーシ派と同盟しているアリ・アブドラ・サレハ(Ali Abdullah Saleh)前大統領はかつて、イエメンを統治することを「ヘビの頭上で踊るようなこと」だとたとえた。
人口2400万人のイエメンは、2011年にアラブの春でサレハ前大統領が退陣に追い込まれてから、混乱へと向かっていった。社会主義国だった旧南イエメンで要職にあったアブドラボ・マンスール・ハディ氏が暫定大統領の座に就いたが、フーシ派やAQAPが台頭し、時にスンニ派の部族たちと連携して暫定政権を脅かすようになった上、影響力を拡大し、互いに争うようになった。
フーシ派は今年1月、大統領府を制圧し、イエメン北部から中部にかけての広大な領域を掌握した。ハディ暫定大統領は南部のアデンに逃れたが、3月25日にサウジアラビアへ国外脱出。その翌日、サウジアラビアを中心に同盟する9か国が、フーシ派の掃討とその背後にいるイランの影響力排除を目的に、フーシ派の進撃を阻止する空爆、「決意の嵐作戦(Operation Decisive Storm)」を開始した。
こうした中、拉致のリスクなどで以前から危険とされていたイエメンへの入国は、国家の崩壊と紛争勃発で不可能に近くなった。空港も港湾も閉鎖され、ビザも発給されなくなった。
イエメン駐在のベテランAFP特派員、ハムード・ムナサール(Hammoud Mounassar)も、3月24日に国外への脱出を余儀なくされた。そのため、私たちの報道はストリンガー(現地協力者)たちのネットワークに頼っている。彼らは常に危険にさらされながら、素晴らしい働きをしてくれている。
AFPが2010年からサヌアで契約している39歳のフリーランス・カメラマン、モハメド・ウワイス(Mohammed Huwais)の写真は米誌タイム(Time)の表紙を飾り、厳しい状況下での彼の苦労が報われたといえる。戦闘開始以来、モハメドは自分が持つフリーランスのネットワークを駆使している。またビデオ取材ではイエメンのストリンガー、ハニ・アリ(Hani Ali)からの取材依頼を、エジプト・カイロ(Cairo)を拠点とするサミ・アンジ(Sami Al-Ansi)が受けている。
昨年9月から首都を支配下に置いているフーシ派は最近、メディアへの敵意をあらわにしている。それまで記者たちは比較的自由に仕事ができていたが、この数か月は脅迫されることもあり、フーシ派が大統領府を制圧したときにも近づけなかった。
援助団体などはイエメンの人道危機を警告している。特に80万人が暮らすアデンはフーシ派の攻撃と、アラブ連合軍の空爆という二つの猛攻にさらされている。
ジャーナリストにとって、イエメンの内戦状態は多くの意味で、シリアの状況を彷彿とさせるものになってきている。暴力が激化し、敵味方が複雑さを増し、外国人記者は誘拐されたり殺害されたりするリスクを冒さずに足を踏み入れることができない。イエメンの現地取材は今、地元の記者たちの勇気と技量に圧倒的に頼っている。(c)AFP/Rene Slama
この記事はアラブ半島7か国を担当するAFPドバイ支局のルネ・スラマ支局長が書いたコラムを翻訳したものです。