【3月31日 AFP】私は子どもの頃から天文学に興味をもっていた。昨年の終わり、私はAFPの報道カメラマンとしての仕事を辞めた。ドキュメンタリープロジェクトに携わったり、大好きな空や星の写真を撮ったりするためだった。部分日食なら見たことがあるが、皆既日食はまだだった。

 11月、米ニューヨークのアマチュア天文家協会(Amateur Astronomers Association)の友人から、ノルウェーの北極圏にあるスバルバル(Svalbard)諸島への皆既日食ツアーに参加すると聞いた。今回、太陽が完全に隠れた状態を体験できるのは、デンマーク領のフェロー諸島か、このスバルバル諸島だけだった。主催者のウェブサイトを見てみると、非常に専門的なツアーのようだったので、私も申し込んだ。

 私たちはノルウェーの首都オスロ (Oslo)で他のツアー客と落ちあい、それからスバルバル諸島の主要な町ロングイェールビーン(Longyearbyen)へと2機のチャーター機で飛んだ。初日は犬ぞりをしたりして、現地の雰囲気に慣れようとした。ロングイェールビーンは山に囲まれた、住民2000人ほどの小さな町だ。ホテルも3軒しかなく、そのうちの一つに泊まった。バスで押しかけたツアーバスの客以外は、本当に静かな町だった。

 皆既日食の日、私は朝7時半頃に観測場所に着いた。早めに行って撮影機材を設置したい他の人たちも一緒だった。気温マイナス17度の寒さにもかかわらず皆、とても興奮していた。天候は完璧だった。

■漆黒の闇への暗転

 ここでは正午頃に太陽が地平線から12度ほどの位置まで上がる。だからスバルバル諸島での「ライティング」はいつでも絶妙だ。それでも太陽が光り輝き、私たちのまわりの雪のスロープをピンク色に照らすのを見て、私を含め多くの人が安堵した。皆、幸せに満ち、涙を浮かべてさえいた。雪原に400人ほどが散らばっていただろうか。皆既日食を見たことがある人たちもいて「初心者」は彼らの話も聞いていた。それでも、圧倒された。

 驚いたことに、すっかり闇へと暗転した。闇は深く、目が慣れるまではカメラの制御装置が見えなかった。太陽が完全に隠れると群衆からは大きな歓声が上がった。わずか2分ちょっとだったが、それ以上に長く感じた。

 前日には、皆既日食をこれまでに25回ほど見たと言う気象専門家のジェイ・アンダーソン(Jay Anderson)氏の講演があった。この現象について段階ごとに詳細に説明してくれたが、要約すれば、写真を撮ることに気をとられずに自分の目で見て体験しろということだった。私といえば、まず写真を撮ってから、追体験することに慣れている。

 だが皆既日食が始まって数秒間、私はただ空を見上げ、すごい、とだけ思った。信じられない体験だった。ファインダーをのぞかずにシャッターを切る道具を持っていたので、撮影しながら同時に見上げることができた。とても非現実的だった。

 その場に立ち会ったことを本当に幸運に感じた。そして私が送った写真によって、他の人たちに少しでもあの体験を共有してもらえたらと思う。これを書いている今はとても疲れているが、エネルギーにあふれてもいる。「ショー」はまだ終わっていない。1時間以内に私たちはまた出かける。今度はオーロラを見に。(c)AFP/Stan Honda