■迷信は魅力的な商売道具

 タイの予言者や占星術師、そして僧侶たちの巨大なネットワークにとって、迷信は間違いなく魅力的な商売道具だ。

 悪魔払いや、お守りの呪文や装身具などはすべて、それなりの額を払えば容易に手に入るし、憑依霊を扱った本や映画は絶大な人気を博している。またビジネス界でも毎年、厄払いのために僧侶たちを雇う。

 タイの人々は、むごい死や予期せぬ死を迎えた人間の魂が肉体から離れるときに悪霊が生まれやすいと信じられている。なかでも、ナークと呼ばれる女性の霊ほど知られている幽霊はないだろう。19世紀のバンコクで、夫が出征中に出産で命を落とした実在の女性だと信じられている。

 この言い伝えには多くのバリエーションが存在するが、どの筋書きも大抵同じで、帰ってきた夫がまるでまだ生きているかのような姿の妻と出会う。ナークは夫に対して非常に献身的だったため、死後も幽霊としてとどまったが、真実を知った夫が逃げ出すと悪霊になったという。

 バンコク市内にあるナークが祭られた霊殿には「本殿は宝くじ抽選会の前日には一晩中開いています」と書かれた看板が掲げられ、地元の人々が病気の平癒や幸運、さらには兵役免除を祈願するために供え物を捧げている。

 霊殿の外では占い師たちが商売に励み、参拝客たちはご利益を得ようと、魚や亀、カエルといった小動物を近くの用水路に放している。こうした動物たちを商う人々によると、ウナギを逃がすと仕事上の成功が訪れ、カエルの場合は罪滅ぼしになるという。

 大僧正はAFPの取材に応じなかったが、参拝客たちは口々に、ナークに供え物を捧げることで報いが得られると信じていると話す。寺を訪れていた若い母親は「ナークも幽霊も存在すると信じている。友だちも皆そうよ」と、さも当然のように話した。(c)AFP/Delphine THOUVENOT, Thanaporn PROMYAMYAI