■迷信で見失っているもの

 だが、こうした素朴な迷信が、タイ人の判断を鈍らせ、搾取される余地を与えてしまう元凶だと批判する声も国内にはある。

 インターネット上で「ファックゴースト(FuckGhosts)」というハンドルネームを使い、幽霊の存在を信じることを批判する主張を展開している男性が、匿名を条件にAFPの取材に応じた。この男性は交流サイトのフェイスブック(Facebook)に同名でページを開設し人気を集めているが、最近バンコク市内の交通死亡事故多発地点として有名な交差点に置かれているシマウマの像を足で踏みつける自分の写真を投稿して物議を醸した。

 横断歩道を連想させるシマウマは、タイでは事故が多発する場所でよく目にする。不幸にも交通事故で命を落とした霊が次の事故を引き起こすと人々は信じており、シマウマの像がそうした霊をはらうとされているからだ。

 この男性は「シマウマを壊そうと考えていたが、監視カメラがあるからね。(この写真も)世間は容赦しないかもしれないね」と語る。男性は、タイの人々が像やお守りばかりを信じ、安全運転を心がけるといったリスク回避の具体的な行動を怠っていると批判しており、フェイスブックでも多くの賛同を集めている。「こうした迷信こそがタイを発展途上国に停滞させている原因だ」と男性は腹立たしげに語った。

 世界保健機関(World Health Organization)の統計に基づいた2014年の研究によれば、タイの交通事故による犠牲者は人口10万人当たり44人に上り、世界の国で2番目に死亡率が高い。ドライバーたちは安全祈願のために車を覆ってしまうほどお守りを飾り付けるが、多くは速度違反や飲酒運転を繰り返している。また三輪タクシーもお守りでいっぱいだが、運転手たちはヘルメットを着けずに定員を超える客たちを乗せて走り回っている。

 だが「ファックゴースト」による運動は部分的に効果を与えているようだ。1月には、これまで100人の命を奪ってきた交通事故多発地点のカーブで、周辺に置かれた数百もの像を撤去された。ただし、撤去作業は僧侶たちによる悪霊払いの儀式なしには始まらなかった。地元の衛生当局の責任者は「作業員たちが始め、かなり不安を感じてしまっていた。僧侶たちがお経を唱えた後、安心して仕事ができるようになったようだ」と明かした。