【9月18日AFP】 迷彩服にアサルトライフル、暗視ゴーグルに赤外線画像装置──ケニアの「オルジョギ(Ol Jogi)」サイ保護区域では夜が近づくと、野生動物レンジャー隊が密猟者たちとの「臨戦」態勢に入る。

「おかしく聞こえるだろうけど、本当に戦争なんだ」と、隊長のジェイミー・ゲイマー(Jamie Gaymer)氏はいう。「国際的なレベルで組織的な犯罪が起きていて、制御できない状態になっている。部下たちは前線に立って、命を危険にさらしながら動物を守っている」

 厚い茂みの中から、20人ほどの男たちが2人1組になって約240平方キロの保護区域へと入っていく。首都ナイロビ(Nairobi)の北郊の高原にある同保護区域の面積は、仏パリ(Paris)の2倍に相当する。

 レンジャーたちは区域内をパトロールする者と、「奇襲」に備えるものに分かれて、ここで夜を明かす。ケニアの野生動物保護当局と警察に訓練された32人のレンジャーたちは、警官の予備役でもあり、武器の携帯を許されている。

 彼らは、「重装備した敵」との激しい戦いの可能性も考慮して、軍の訓練も受けていると、ゲイマー氏は言う。毎晩、命をかけた仕事が続く。密猟者にも目を光らせなければならないが、一方でゾウやライオン、バッファローなどの野生動物からも自分の身を守らないといけない。

 レンジャーたちは密猟者のことを「敵」と呼ぶ。彼らの使命は、オルジョギ保護区のサイ66頭を守ること。20頭が南部のミナミシロサイで、46頭が絶滅の危機にあるヒガシクロサイだ。その大半がケニアに生息しているヒガシクロサイの現在の個体数は世界で800頭未満とみられている。

 サイの角は、伝統的な薬やステータスシンボルとしてアジアの国で取引されている。闇市場では、中東やアジアにおける金の2倍の値段に相当する、1キロ当たり最高8万ドル(約870万円)の値がつくこともある。

 密猟者は1キロ当たり1万ドル(約110万円)から1万5000ドル(約160万円)をもらう。一晩の仕事で、合法に働いた場合の一生分を稼げるのだ。彼らが携帯する武器は、悪徳警察官や兵士から1晩200ドル(約2万円)から300ドル(約3万円)で借りてきているものもある。

 7月、オルジョギ保護区のサイが何頭も殺された。過去15年、ケニアで最悪の被害だった。4頭が組織的な攻撃によって殺されたが、ケニアでは「これまでに見たことのない」方法だったと、ゲイマー氏はいう。同氏はサイを襲ったその集団が内部事情に通じていた可能性があるとしている。

 ケニアでは2013年、前年の2倍にあたる少なくとも59頭のサイが殺された。

 オルジョギでは今年、サイの赤ちゃんが6頭生まれたが、その一方で8頭が密猟の犠牲になっている。「もうこれ以上こんなことを許してはいけない」と、ゲイマー氏はいう。

 夜が明けると、レンジャーたちは何も問題がなかったとの報告を終えて帰宅の途についた。また夜になったら前線に立つために、家で睡眠をとる。前の晩は平穏に終わったが、ゲイマー氏の表情は固い。同氏は最後に「アフリカ全域で今、我々のような人間が勝ち目のない戦いをしている」と語った。(c)AFP/Aymeric VINCENOT