【9月15日 AFP】磁石を使って血液から細菌や毒素を取り除く装置を開発したとの研究論文が、14日の英医学誌「ネイチャー・メディスン(Nature Medicine)」に発表された。これにより、敗血症や他の感染症患者に救済の道が開かれる可能性があるという。

 現在はラット実験の段階で、人間での試験は行われいないが、論文を発表した米ハーバード大学(Harvard University)などの研究チームは、この体外装置を利用して、将来的にはエボラウイルスなどの病原体を血液から取り除ける可能性があると期待を寄せている。

 脾臓(ひぞう)のような働きをするこの装置には、「マンノース結合レクチン(MBL)」と呼ばれる人間の血清タンパク質でコーティングされた磁性微粒子(ナノビーズ)が使われる。ここでのMBLは遺伝子組み換えされたものだ。

 病原菌や毒素はMBLと結合する。ここでのMBLは磁気を帯びているために、磁石で「引き抜く」ことができると研究チームは論文に記している。浄化された血液は、循環系に戻されるという。

 この「バイオ脾臓」は、敗血症(血液の感染症)を治療するために開発された。敗血症の患者数は世界で毎年1800万人に上り、死亡率は30~50%。敗血症を引き起こす病原菌は抗生物質に耐性がある場合が多く、体内で速やかに拡散する。

 論文の共同執筆者の一人、ハーバード大のドナルド・イングバー(Donald Ingber)氏は、AFPの電子メール取材に対し、人間に対する安全性が示されれば「この『バイオ脾臓』を用いて患者を治療できるようになる可能性がある。この装置は患者の血液を物理的に浄化し、幅広い種類の生きた病原菌だけでなく、死んだ病原菌の断片や毒素なども血液中から速やかに除去できる」と説明している。

 またMBLタンパク質は、エボラウイルスにも結合することが知られているため、「この装置は、エボラ出血熱患者の治療にも役立つ可能性がある。エボラ出血熱が最も高い伝染性とウイルス血症を示す段階にある場合でも、このバイオ脾臓で患者を治療し、血液中のウイルスの量を減らすことができるかもしれない」と付け加えた。

 この他、MBLはマールブルグ出血熱ウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)にも結合することが報告されている。

 論文によると、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や大腸菌などの有害な細菌に感染した、生きたラットを用いた実験では、この装置によって90%の細菌を血液中から除去できたという。

 また人間の血液を用いた実験では、多種の細菌類や毒素がバイオ脾臓で除去されることが示されている。(c)AFP