【9月3日 AFP】人肉食、腐った肉に群がるうじ虫、そしてカオスの中において死に物狂いで人間性にしがみつこうとする1人の兵士──悲惨な戦場を舞台に描いた日本映画『野火(Fires on the Plain)』が第71回ベネチア国際映画祭(Venice International Film Festival)で上映され、会場に集まった人々に衝撃と感動を与えた。

『ヒルコ/妖怪ハンター(Hiruko the Goblin)』や『鉄男(Tetsuo: The Iron Man)』でカルト的人気を誇る塚本晋也(Shinya Tsukamoto)監督が同映画祭に出品した作品『野火』は、敗戦の色濃い第2次世界大戦末期のフィリピン戦線の日本軍を描いた大岡昇平(Shohei Ooka)氏の小説を映画化したもので、1959年に市川崑(Kon Ichikawa)監督も手掛けている。

 しかし、和製サイバーパンク映画の巨匠といわれる塚本監督の今作は、血なまぐささと残虐さにまみれた出口のない悪夢に満ちている。

 塚本監督自らが演じている主人公の田村一等兵は、結核を患ったために部隊から放逐されジャングルをさまよう。そこには腐敗する無数の遺体が散乱し、生き残った戦友たちは「食糧」となる。

 映画祭で会見した塚本監督は、戦争の愚かさ、無意味な死を見せる映画を撮りたかったと語り、今、世界で起きていることに基づいてこの作品を撮ろうと決意したのではなく「20年ぐらい前からずっとこの作品を作りたいと思っていた」と説明した。これまでに自分が見た戦争映画に基づくのではなく、実際にこの悲劇を生き延びた人々について、そして想像することができない彼らの考えや痛みについて、もっと知りたかったのだという。

 塚本氏は「実際に戦争に行った方々の話を聞けるのは今しかないと思った…戦争での痛みや苦しみを体験した方々がいなくなっていくと、残念ながら人間はそういう痛みや苦しみがあったことを忘れだす。そういった痛みを忘れるにつれ、日本の状況が戦争に向かっているという危機感を感じる。今こういう映画を作らなければいけないという危機感を感じて、とにかく作り始めました」と語った。

 同映画祭メインコンペティション部門の最高賞である金獅子(Golden Lion)賞を狙う『野火』は、一部の批評家からは絶賛を浴びた。一方で上映中に席を立つ観客も後を絶たず、その多くは青ざめた顔色をしていた。(c)AFP