北米先住民のサカク(Saqqaq)人やドーセット(Dorset)人として知られるこれらのパレオ・エスキモーは、それぞれ家屋は数戸で住民は20~30人の小規模な村々で暮らしていた。

 パレオ・エスキモーの人口規模については、確実な人数を把握することは困難だが、研究チームによると、合計で数千人規模だったと思われるという。

 また研究チームによる分析の結果、母親から受け継がれるミトコンドリアDNAが均一であることが判明した。この均一性を考えると、集団の中に女性はわずかしかいなかったと思われ、近親交配が広く行われていた可能性がある。

 デンマーク自然史博物館の研究員で、分子生物学者のマーナサ・ラガバン(Maanasa Raghavan)氏は「北極圏の居住史には、世界の他の地域とは全く異なる独自性がある」と指摘する。

「文化の変容をもたらしたのは思考の展開であって、当地に新たに流入した人々ではなかったということだ」

 専門家らによると、ドーセット人は、石を薄く削って先端をとがらせた尖頭(せんとう)器や小さな刃物の作製に優れた技術と技能を持っていたことで知られているという。だが、弓矢は持っていなかったと考えられている。

 動物や魚を捕獲して生活し、伝統的な「ロングハウス」で儀式的な集会を開いていた。

 だが今もなお、考古学者らは「彼らの思考様式を理解するのに多大な困難を抱えている」とフィッツヒュー所長は指摘している。

 またこれまで知られている中で、パレオ・エスキモーほど長い間、孤立した状態のままだった民族集団に匹敵するものは、歴史上には存在しない。

「これほどの文化的な安定性と継続性が保たれたのはまさに他に類を見ないことだと思う。この4000~5000年間でこれに酷似した現代的な事例を探そうとしても不可能だと思う」とフィッツヒュー所長は話している。(c)AFP