【6月10日 AFP】1歳未満の乳幼児が全身麻酔を受けると、その後の幼少期の記憶力が低下する可能性があり、その状態が生涯続く可能性もあるとする研究論文が9日、米科学誌「Neuropsychopharmacology(神経精神薬理学)」に掲載された。

 研究チームは、6~11歳の子ども56人を1歳未満に麻酔を受けた/受けていないで、各28人の2グループに分け、特定の絵画およびその詳細を記憶する能力について10か月にわたり調査した。

 その結果、麻酔を受けた子供は、受けていない子供よりも記憶力が平均28%低く、また絵画の詳細を記憶するテストでは同20%低かった。

 電子版の要約によると、「知能や行動を測定するテストで違いはみられなかったが、麻酔を受けたことのある子供は記憶力が低かった」という。

 研究結果では、麻酔を1回受けた子供と複数回受けた子供の間に相違はなかった。また詳細に関する記憶である「想起」とは別の、過去の経験に関するより感覚的な「親近性」については、識別可能な麻酔の影響は観察されなかった。

 同研究チームはこれと並行して、ネズミを使った実験も行い、生後1週間以内に全身麻酔を受けたネズミ33匹が、受けていない個体に比べて長期にわたり匂いの記憶に障害が出ることが示された。

 子供たちが理由もなく麻酔を受けることはありえないため、研究チームは最終的に、記憶障害の原因から外科手術を排除することはできなかった。しかし、ネズミ実験で得た観察結果は、人間にも当てはまる可能性が高いとしている。

 記憶の低下が続く期間を特定するには、さらなる研究が必要だが、論文の共同執筆者のグレッグ・ストラットマン(Greg Stratmann)氏は、AFPに宛てた電子メールで、ネズミ実験の結果から「一生涯続くことも考えられる」と述べた。

 また、年長の子供や大人が麻酔を受けた際に、脳に同様の影響があるかについてもわかっていない。

 ストラットマン氏は、この研究結果から広範囲にわたる結論を導き出すことには慎重な姿勢を保ちつつ、「こうした研究によって、これまでは害がないと考えられていた節もある麻酔をめぐり、本当に必要なのかどうかを考える良いきっかけになるだろう」と述べている。(c)AFP/Mariette Le Roux