■流れる水の謎

 研究チームは、火星の過去の大気圧に関する情報を得るため、小惑星の衝突でできた火星のクレーターの大きさを測定した。大気との接触で生じる摩擦により、小惑星が燃え尽きてしまうことを考慮すると、大気の層が厚ければ厚いほど、小惑星の大きさはより大きくなければならないと考えたためだ。

 逆に言うと、大気が薄ければ、小さな岩でも燃え尽きることなく、地面に激突することがあり得るということになる。

 カイト氏のチームは、このことを示唆する材料を得るため、過去に水流が存在した証拠を示す、約36億年前に形成されたエオリス・ドルサ(Aeolis Dorsa)地域のクレーター319個を詳細に調べた。

 研究チームの推算によると、これらのクレーターは、火星の大気圧が最大0.9バール(900ヘクトパスカル)だった時期に形成されたという。

 この大気圧は現在より150倍高く、興味深いことに、水が豊富な地球の海面における大気圧に近い。

 だがここで問題になるのは、火星が地球より太陽から遠くにあること、そして当時は、太陽の輝度が現在よりもはるかに低かったことだ。

 これらを考慮すると、火星の地表が水の凝固点を上回る気温を保つためには、5バール(5000ヘクトパスカル)以上の大気圧が必要になる。しかし河川が存在した時期に、長期間持続する必要のある厚い大気は火星には存在しなかったと思われる。

「われわれの研究結果が示唆するように、火星に川が流れていた当時、数バールの安定した大気が存在しなかったとすると、温暖で湿潤なCO2と水の温室の存在は除外され、長期の平均気温は氷点下だった可能性が非常に高くなる」と論文は述べている。