【4月11日 AFP】ギリシャ神話の英雄ヘラクレス(Hercules)が伝説的な偉業の後に体力を回復させるのに使ったもの。同じくギリシャの「医学の父」、ヒポクラテス(Hippocrates)がその効能を絶賛したもの。さらに古代ローマの将軍スラ(Sulla)も健康の秘訣(ひけつ)だと公言していたもの。それはいったい何かというと――。

 ギリシャで太古から薬効のある自然の恵みとして知られ、愛されてきたものといえば、それは温泉だった。しかし残念ながら、今日はさほど利用されていない。

 古代ギリシャでは、神話の医神アスクレピオス(Asclepius)の名にちなみ、「アスクレピエイア(Asclepieia)」と呼ばれる癒やしの寺院に巡礼者らがこぞって訪れていた。

 今もギリシャには、病気などに効くとされる温泉が約700か所存在する。しかし、そのうちアクセス可能なのは100か所程度で、有料の施設として活用されているものはさらに少ない。

 サントリーニ(Santorini)島やミロス(Milos)島、コス(Kos)島といった人気の観光地などにもあるギリシャの温泉の多くは、露天で最低限の設備しかない、今なお無料で利用できる公衆浴場だ。

 60代のある男性は、中部の町テルモピュライ(Thermopylae)近くの山あいで湧き出ている地元の温泉のおかげでもう何年も医者要らずだという。

 男性は自己流で1年に300回、1回30分ずつ、温度30~40度のその硫黄温泉につかるという。「これで毒素を抜いて酸素を取り込み、血圧は安定、血管は拡張され、筋肉はほぐれ、肺は浄化され、骨は強くなるし神経系も休まる」と語り、さらに「歯まで白くなるんだよ」と語った。

 ギリシャの温泉町組合の事務局長によると、観光客に提供できるほどの設備が整った温泉施設は全土でも約10か所しかないという。さらに過去5年間の経済危機で需要は落ち込んでおり、同組合によると有料施設の利用者は2009年以降、それ以前の半数に減っているという。

 ギリシャの民営化庁は昨年、テルモピュライを含む同国中部の温泉4か所を民間の開発企業に売却すると発表したが、買い手はつかなかった。温泉愛好家らは、当分無料入浴を楽しめそうだ。(c)AFP/Sophie MAKRIS