■地域の人がものの作り手になるシステム

 アメリカに端を発するメーカーズ・ムーブメントを国内で体現する象徴的な場所のひとつがファブラボ鎌倉(FabLab Kamakura)。ファブラボとは「人々にデジタル工作機器を利用する機会を提供することで、個人による発明を可能にする」をコンセプトにしたメイカーズラボ(ものづくり工房)。歴史を感じさせるファブラボ鎌倉の建築は、1888年に建てられた酒造蔵を秋田県から移築してきたもので、美しい木造建築の中にデジタル工作機械がいくつも並ぶ、新旧取り混ぜた居心地のいい空間。ファブラボ鎌倉のディレクターである渡辺ゆうかさんは、鎌倉という場所を選んだ理由を「地域性が出たラボが各地に広がった方が絶対面白い」と思ったからだという。

 「日本でファブラボを立ち上げる場所として、都市部にアクセスがよくて、いろんな人が通いやすい場所を考えていました。でも、自分が住みたいところに作らないと長続きしないなと思ったんです。同時に、ファブラボ自体は都市部のフランチャイズのような広がりをするよりも、地域性が出た方がいいと思うんです」。

 「ファブラボは、各地域のネットワークで、人々のデジタル工作機械を利用する機会を提供することで個人による発明を可能にする場所なんです。日本では、2011年の段階で2カ所だったのが今7カ所あります。ただ、大きな組織が取り仕切っているというよりも、立ち上げたいっていう人が自己責任で立ち上げています。私は元々多摩美術大学の環境デザイン学科卒なんですけれど、環境よりのバックグラウンドを持っていて、人の流れなどのシステムを考えることに興味があり、都市計画の事務所に入りました。その後デザイン会社に転職しましたが、あるとき交通事故にあい、健常者ではない生活の中で世界を見る目が変わって、そのときに開催されていた『世界を変えるデザイン展』でファブラボに出会いました。ITが働き方を変えてくれたように、デジタル工作機械の普及で新しい働き方なり、仕事の作り方なりがグッと変わるなと直感的に思い、ファブラボに参加することになりました」

 デジタル工作機械の誕生により、ものづくりが人々の身近になり「与えられたものを消費すること」から「自分からものをつくる」へ大きくシフトしようとしている。

 「消費者という言葉が生まれたのも20世紀で、その前までは人々は必要なものを自分たちで作っていたんですね。企画→製造→流通→販売のプロセスも元々はコミュニティの中にあったのに、海外に行くようになってしまった。でも、だんだんと企画、製造、使い手が一緒になり始めている。自分たちの手の中に取り戻しているような感覚があるので、新しいことをしているようで結局懐かしいような感じもします。ものを作るとは結局生きる力とニアリーイコールで、料理をつくる、子どもをつくる、家をつくるなど、つくることと生きることは切り離せない。自分で作るという選択肢が増えていけば、今まで諦めていたこともうちょっと取り戻せるのでないか、そんな想いを実現できたらいいなという願いで、この場所を運営しています。発注された仕事をデジタル工作機械で効率よくこなすデザイン事務所ではなく、地域の人が作り方を覚えて、自分たちで作れるようになるその“システム”を作りたいんです」

 ファブラボではコミュニティラボとして月曜日の朝9時に集合し、建物の清掃を手伝うと2時間工作機械が使用できる「朝ファブ」という活動を行っている。2歳半から70歳まで、本当の意味で多様性に富んだ学びの場だ。

 「来られる方はアクティブシニアの方や美大出身主婦の方などがいます。参加者の方もデジタル工作機械のことはよくわからなくても4、5回通う中で、理解してきて、自分の特技を他の人に教えられるようになる関係性ができることもあります。関わり方は与えられるんじゃなくて、自分で探す。そして疑問を投げたら答えてくれる人がたくさんいる場所です。この場所の根本に流れているのは“個人の発明を可能にすること”で、その発明はものかもしれないし、ライフスタイルそのものかもしれません。妊娠・出産期の女性がITで自宅作業を可能にしたように、デジタル工作機械の普及が、これからの働き方を変えると思います。子育てを大事にしたい若い人が鎌倉に移り住んでいるのも同じ文脈ではないですかね。鎌倉は、人々が目指していること、時間の流れ、互いに出会いたい人の感度が似ています。場所の持つ力は周波数だと思っていて、人は自分の周波数が合うところに行った方が幸せだと思うんですね」