■若い世代の物欲のなさは、ある種の賢さ

 その高感度なファッション・コミュニティを指向するビームスのスタッフの興味深い発言がある。『WWD JAPAN』2012年11月26日号の「サンフランシスコの丁寧な生活がお手本に!」特集で、ビームス商品統括本部の佐藤幸子氏が「今、社内のスタッフには、“もう、服がメインでなくていいのよ”と。トレンドなんてどうでもいいと思うけど、その気分そのものがトレンドなのかもしれない」という発言をしている。これは服がメインの商材であるビームスのスタッフとしてはラディカルな発言だと思うのだが、これについて伺ってみた。

 「ある部分、時代としてはあっていると思います。今、若い子たちの物欲がなくなったりするのは非常に困る部分がありますけど、これは若い世代のある種の賢さとも言えるわけです。ある種の本音の部分では大きな波は動いているので、そこにどういうふうに刺激を与えるかということだと思うんです。そこは絶えず意識してます。僕は店は劇場だと言っています。旬に敏感な人や、オピニオンリーダーを自負する人や、ミーハーで新しいもの好きの人、そういう人たちをビームスは囲い込んでいると。そうなると、その感覚がノウハウとなり、異業種から色んな話が持ちこまれるようになったんです。うちを買いかぶっているところはあるかもしれないけれど、抱えているお客さんの声を毎日毎日聞いているから、それはものすごいマーケティング・データになります。ファッションだけでなく、例えば車や電子機器や食品でも、生活者は今どういう商品を求めているか提案することにより、コラボレーション出来る。それがもしかすると次のビジネスモデルになるかもしれない」

■日本の加工貿易的な“コク”と“キレ”

 「セレクトのみならず、企画、広告、デザイン、コピー……にも“コク”と“キレ”が絶対に必要です。ファッションはそれがすごく顕著で、川の流れのように流れて通り過ぎて行ってしまうものと、底に沈殿してライフスタイルになっていくものとがあります。ライフスタイルになるには時間がかかるのですが、それが“コク”ですよね。もちろんキレやフック、刺がないと引っかかってこないのですが、ただ、それだけだと薄っぺらなものになってしまう。“キレ”と“コク”のさじ加減が大事なんだと思います。日本は今まで、洋服やライフスタイルという点において、“コク”をつくるには歴史が足りず、若干のハンデがあったと思います。逆に言うと、もともと資源がなかったから加工貿易が発達したわけで、その技術においてはものすごく長けています。感度の加工貿易も然り、海外のものを持ってきて、そこから日本独自のストリート文化やライフスタイルを作るんです。元々ビームスも、ストリートから生まれたライフスタイル文化を伝えてきました。1989-90年頭にいわゆる渋カジ現象が起こりましたが、これは海外のどこから出たものでもない、どこのカリスマデザイナーが作ったものでもない、渋谷の街が生んだ文化でした。そこから20年が過ぎて、また新たなストリート文化が生まれています。日本人は新しいものにはすぐ飛びつき、更に新しいものが出ればまたそっちに飛びつきますが、加工貿易的だったものを、徐々に自分のDNAに変えて残していくようになり、日本特有のスタイルになってきたんじゃないかと思います。歴史は短かったけれども、それを積み重ねた結果、こんなにおしゃれな人達がいる街は世界で東京のほかにないと思うんです」