■古い名作の新しい見方

 絵画ファンはいつの日か、偉大な芸術家の作品をまったく新しい見方、さらには感じ方で味わうことができるようになるかもしれない。既に、オランダの首都アムステルダム(Amsterdam)にあるゴッホ美術館(Van Gogh Museum)の入場者は、3D印刷で作製したゴッホ作品のレプリカを購入して家に持ち帰ることができる。

 絵画の分析を目的としている科学技術の多くは決して目新しいものではなく、その始まりは1880年代末だ。専門からは長い時間をかけて洗練され続けてきたものだと説明する。

 分析機器の小型化と多くの機器のポータブル化がこの10年間で大幅に進んだことで、現在では美術館のなかで行える作業が以前より増えた。これは高い費用とリスクをかけて芸術作品を運搬する必要はないことを意味する。

 また、芸術作品や文化財を研究するためのナノテクノロジー技術は、極小電池の製作から症状が進行した患者へのがん治療まで、生活の他の分野にも応用が広がっている。

 ファン・デュイン教授は「結局のところ、扱っている問題は同じ。メートル規模の対象物を、個々の分子のレベルにまで下がって研究できるようにする必要がある」と述べている。

 米アルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)の研究チームは昨年、高エネルギーX線を用いて、ピカソが作品の一部で家庭用ペンキを使用していたことを明らかにした。

 同研究所の物理学者、フォルカー・ローズ(Volker Rose)氏は、「このことを解明できたのは、極めて小さな物を見ることができるほどの非常に高い空間分解能を実現できたからに他ならない。現時点において最も微量の不純物の痕跡を検知するための感度も備えている」と述べた。

 この新事実は数々の議論を巻き起こした。しかしローズ氏は、「ごく一般の家庭用ペンキを一缶買ってくれば、誰でもピカソになれる」とのメッセージは多くの人を元気付けることができるはずと述べている。(c)AFP/Kerry SHERIDAN